第113話

文字数 590文字

「今日はどうだった?」

 一来の気遣わしげな声が聞こえてきました。

「別に……、いつもと変わらないかな」中学校の制服を着た少女が答えました。

「ちょっと! ねえ、なぜあいつらをやっつけてしまわないのさ? あんたなら簡単だろう? 影なんだから」

 制服の少女がたんたんとしているのとは対照的に、紅霧はイライラと手をぶらつかせました。

「奏多が望んでないから……」

「はぁぁ。だけどこれじゃあ、いつまでたっても埒があかないじゃないか」

 紅霧は水のない噴水の縁に腰をかけると、勢いよく脚を組みました。スカートが持ちあがり、白て形のいいふくらはぎがむき出しになります。
 おやおや、一来が目のやり場に困って目が泳いでいますね。

 マスターがかすかに「チッ」と舌打ちしました。
 これはこれは……。マスターもかわいいところがありますね。私はマスターに気づかれないように、浮かんだ笑みをそっと消しました。

「紅霧、まあ、もう少し待ってみようよ。僕なら平気だから」
「あんたの心配なんかしてないよ! せっかく精命を貯めたって、黒く染まらなきゃ意味がないんだ。あたしはもういい加減、他の奴に入れ替えたいよ」

 一来が紅霧の手の中の銀の鏡をのぞき込みました。どうやら鏡の中の人物が、何か言ったようです。

「……あっ。大丈夫だよ。君は気にしないで、ゆっくり休んで……」

一来が慌てて鏡に向かって、なだめるように話しかけています。


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