第11話

文字数 547文字

「あー、うん。埋め合わせは今度でいいよ。もう帰るだけだから。じゃあ」

 しかし別れの挨拶などなかったように、一来を従えて主人は歩いていきます。一本道なので、一来の前を歩くのは簡単なのです。
「あの、なんでまだついてくるの? アイラの家は反対方向だろ?」

「ついて行ったりしてないわよ。一来がついてきているんでしょ。あ、ちょっと、この店に寄りましょ」

 マスターは一来がついて来ると信じて全く疑っていない態度で、当然のようにアクセサリーショップに入っていきました。断るタイミングを逃した一来は、マスターの後から女の子だらけの店内に入ると、居心地悪そうに店のすみっこに(たたず)みました。

 ブラック・アンド・ローズは、マスターのお気に入りの店です。手頃な値段の宝石を使ったオリジナルのシルバーアクセサリーが人気なのです。王冠とブラックの薔薇をモチーフに使った商品は、ややハードでロックテイストなイメージ。良家の子女が多い彌羽(みわ)学園の生徒を店内で見かけたことは、ほとんどありません。

 ですから、マスターが大きなムーンストーンの付いたイヤリングを手にとって耳に当て、鏡を覗き込んだ時に、チラッと同じ制服の少女が鏡の中に映り込んだのは、めずらしいことでした。

 しかし私が少女に目をとめたのは、それだけが理由ではありません。
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