第10話

文字数 393文字

「さ、行くわよ!」

 マスターの頬がいつもよりも赤いのは、夕陽があたっているせいでしょうか? それとももう少し一緒にいたい、という意味でしょうか?

 一来と顔を見合わせると、くつくつ笑いが湧き上がってきます。私は急いで影にもどり笑いを隠しました。見つかったら面倒です。

 しかし取り残された一来は、笑い声をたててしまいました。すかさず振り返ったマスターの長いツインテールが鞭のようにしなり、ピシリと一来の頬を襲いました。

「痛ってぇ……」

 頬をさすりながら、恨めしそうに私を見る一来を見て、失礼ながら私は笑ってしまいました。影の姿なので見えないだろう……と思ったのですが。

「フラーミィ! ジャスミンの香り、ダダ洩れだから! それで笑っていること隠しているつもり?」

一来はなかなか鼻が利きますね……。私は影のまま、一来の体を這い上がり耳元で囁きました。

「今度、埋め合わせしますから。影ながら、ね」
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