第22話

文字数 572文字

 わずかに上から押し付けられるような感覚ののち、すぐにチン、と軽い音がして四階に到着しました。ドアがなめらかに開きます。エレベーターから降りようとしない識里の影の腕を掴み、一来が読み取った番号の部屋の前に連れて行きました。

 「ここも手のひら認証だね」

 マスターは識里の手のひらをドアのセンサーに無理やり押し付けました。カチャッと扉の中で解錠する軽い音がします。マスターは玄関のドアに迷わず手をかけて、引っ張りました。家族がいたらどうしようか、などということは考えないのがマスターらしい。

 靴を脱ぎ、家の中に上がり込みます。識里も諦めたように靴を脱いで付いてきました。そのさらに後ろから、一来が「おじゃましまーす」小さな声でつぶやきながら申し訳なさそうに入って来ました。そろっと後ろ向きに靴を脱ぎ、律儀に揃えています。丁寧ですが、場違いだと思います。私は首をすくめて、靴のまま家に上がり込みました。

 広めのリビングにはヤシの木に似た葉っぱの観葉植物が置いてあります。ネームプレートには、パキラと書いてあります。マスターは葉っぱをいじりつつ、部屋の中を見回しました。

 「それで? 何か用なの?」ようやく識里の影が自分から口を開きました。お茶やコーヒーは出てこないと予測できる表情です。さらに体の周囲から千切れた影が羽虫のようにぶわっと広がりました。



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