第46話
文字数 830文字
「アイラ……、何をしたの?」
一来は顔をしかめ、マスターに意見しようと口を開きかけました。
しかし「今はそれどころじゃないでしょ? さあ、中に入ろう!」と稜佳が遮ると、職員室のドアを開け中に入りました。
「失礼しまーす」
「ああ、なんだい……」痩せた男性教師が顔をあげました。
「浅葱先生。……顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
「何が? ああ、いや、もちろん大丈夫だ」
稜佳の質問に大丈夫と答えたものの、椅子に沈み込むように座り額からじっとりと粘るような汗をにじませている顔が、それは強がりだと物語っています。誤魔化すように銀縁の眼鏡をはずし、小さな布で磨いてから、ぎこちなく掛けなおしました。
「お茶、淹れてきますね」
稜佳は机の上の湯飲みを手に取り、給湯器でお茶を淹れてきました。といっても、ボタンを押すとお茶の粉末が一回分出てくるので、そこにお湯を注ぐだけの簡単なものです。
「ああ、ありがとう。ダメだなあ……。生徒に気を使わせるなんて……」
浅葱先生は肩を落とし、熱い湯のみを両手で挟んでぎゅっとにぎりました。
「先生……火傷しちゃいますから……」
握りしめられている湯飲みを一来がゆっくりと引き抜いて机に置きました。浅葱先生への同情で会話が途切れたところで、マスターが言いました。
「稜佳、早く要件を言いなさいよ」
まるでコンビニエンスストアで「マスカット味のガムありますか?」とでも言っているような口調です。同情のかけらも感じられません。私は片眉をあげました。日頃、私に空気を読めなどと雲をつかむようなことを言っているというのに、目の前の人物の表情は読まないのでしょうか?
「アイラ、ちょっと浅葱先生を休ませてあげろよ」一来が小声で咎めました。
「大丈夫だ、真堂くん。ええと、それで君たちの用事はなんだい?」と浅葱先生が無理に微笑みました。そして今度は湯飲みの熱い個所をさけて上の方を持ち、口に運びました。一口すするとお茶の熱さのおかげか、顔に少し赤みがさしてきました。
一来は顔をしかめ、マスターに意見しようと口を開きかけました。
しかし「今はそれどころじゃないでしょ? さあ、中に入ろう!」と稜佳が遮ると、職員室のドアを開け中に入りました。
「失礼しまーす」
「ああ、なんだい……」痩せた男性教師が顔をあげました。
「浅葱先生。……顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
「何が? ああ、いや、もちろん大丈夫だ」
稜佳の質問に大丈夫と答えたものの、椅子に沈み込むように座り額からじっとりと粘るような汗をにじませている顔が、それは強がりだと物語っています。誤魔化すように銀縁の眼鏡をはずし、小さな布で磨いてから、ぎこちなく掛けなおしました。
「お茶、淹れてきますね」
稜佳は机の上の湯飲みを手に取り、給湯器でお茶を淹れてきました。といっても、ボタンを押すとお茶の粉末が一回分出てくるので、そこにお湯を注ぐだけの簡単なものです。
「ああ、ありがとう。ダメだなあ……。生徒に気を使わせるなんて……」
浅葱先生は肩を落とし、熱い湯のみを両手で挟んでぎゅっとにぎりました。
「先生……火傷しちゃいますから……」
握りしめられている湯飲みを一来がゆっくりと引き抜いて机に置きました。浅葱先生への同情で会話が途切れたところで、マスターが言いました。
「稜佳、早く要件を言いなさいよ」
まるでコンビニエンスストアで「マスカット味のガムありますか?」とでも言っているような口調です。同情のかけらも感じられません。私は片眉をあげました。日頃、私に空気を読めなどと雲をつかむようなことを言っているというのに、目の前の人物の表情は読まないのでしょうか?
「アイラ、ちょっと浅葱先生を休ませてあげろよ」一来が小声で咎めました。
「大丈夫だ、真堂くん。ええと、それで君たちの用事はなんだい?」と浅葱先生が無理に微笑みました。そして今度は湯飲みの熱い個所をさけて上の方を持ち、口に運びました。一口すするとお茶の熱さのおかげか、顔に少し赤みがさしてきました。