第18話

文字数 885文字

「味は悪くないですが、一般的な量ですね。髪の毛の長さも短いですから、全ての髪の毛をいただければ、五分程度は動けるかもしれませんね」

「あ、そう……全部で五分かぁ」一来はわかりやすくがっかりしました。

「え? それじゃあ、フラーミィと識里さんの影はなんで……?」

『一来、よい所に気が付きました。まず私は、アイラが幼い時に、その時、生えていた髪の毛を一本の残らずすべていただきました。まるごと全部、それが大事なのです。ですから私はアイラと長時間離れていても、消えることはありません。アイラが死なない限り』

「じゃあなぜ、くっついているわけ? どこかに行っちゃえばいいのに……」 

「痛っ!」一来が顏を押さえました。

マスターが急に振り返り、ツインテールがムチになって顔を打ったようです。マスターの猫に似たややつり上がった目が、さらにキリリと上がっているところをみると……つまり、わざとやったのでしょう。

 一来には気の毒ですが、ひとまず私に関する説明は今は必要ではないので、一来の質問は聞き流すことにします。

『さて、一般的な影の場合は、与えられた精命が尽きれば、ただの影に戻ってしまいます』

 マスターが、手を首のところでヒラヒラと振るようなしぐさをしました。眉をしかめて、(余計なことは言うな)と、無言の圧力送ってきますが、ここは見ていないフリです。

『つまり、あの影は普通ではないのです。……が、普通ではないにせよ、いずれ影は必ず本体にもどるはずです。影とはそういうものですから』

私は、アレがただの影ならよいが、と前を歩いて行く識里の後ろ姿を見ながら、心の中で付け加えました。

マスターさえ知らないことがあるのです。
それは、影は一来の髪の毛を与えられても、せいぜい5分程度しか動くことはできませんが、もし精命を、物質を介さずに直接もらえれば……、精命の少ない人間のものであっても、しばらくの間、動き回ることも可能だということです。

けれど精命を直接吸い取る。そんなことが出来るとすれば……。私は嫌な予感などというものは持ち合わせていません。私の胸は、明らかな悪い予測に焼けてひりつきました。
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