第162話

文字数 656文字

マミの報告によれば、連続暴行事件の被害者の三人はいずれも怯えていて、気が動転しているとしか思えない供述をしているとのことです。

三人が話す内容はバラバラ。人間だけど人間じゃなかった、相手は一人だった、複数だった気がする、または双子だった、などと言っているらしいのです。唯一、三人が口を揃えているのは、これまでに会ったことのない人物だったということだけです。

少年の供述には食い違いが大きいものの、状況的には似通った点が多いため、関連性があると判断されたようです。警察では少年たちの供述内容が違うのは、事件のショックで記憶が曖昧になっているせいだと結論付けました。

しかし私にとっては、生徒の供述が一つの事実を指していることは明らかです。本来なら、ピュリュが影にもどった奏多に会う必要はもうありませんが、あえて会いにやってきたのは私の推測を確認するためです。

マスター達が一緒ならば、スイーツの一つも食べながら話すところですが、残念ながら私は金銭を持っていません。仕方がないので、家族は仕事に行っているため誰もいないという奏多の家に向かいました。すでに物言わぬ影となっているピュリュに『少しの間、失礼するよ』と声をかけ、重なりました。これで人目を気にせず歩けます。

 到着した奏多の部屋は、鏡を通してやってきた時と変わりありませんが、記憶とは左右の配置が逆です。例えばマンションの隣室などのよく似た別の部屋に来たような違和感がありました。そのことがかえって、無事に帰って来られたという実感として感じられ、ふと頬が緩みました。
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