第127話

文字数 706文字

「きまりだね。鏡を元に戻してもらわないといけないから、私も行くよ。一時休戦といこうじゃないか。でも奏多を連れ戻したら、鏡は返してもらうからね」

『契約成立、ですね。では行きましょうか?』

腰を浮かせた三人を「ちょっと待っ……て」と一来が呼び止めました。
「あの、皆ごめん……。一人で勝手な事をした。やっぱり僕と紅霧の二人で行ってくるから、皆は待ってて」

頭を下げる一来は、雨に濡れそぼった犬のようにしょぼくれています。

マスターは緩む口元を誤魔化そうとして唇を噛みましたが、猫のようなつり目が少し垂れて細くなっています。

「何をバカな事言っているのよ。一緒に行くに決まっているじゃない! だけどもちろん、ただで済ますつもりはないわよ。皆で無事に帰ってきたら "お仕置き” よ!」と、言いながら両手で蟹の真似をするように、人差し指と中指を立て、「お仕置き」という単語の前後でくいッと曲げました。

「え、カワイイ! アイラちゃん、なにそれ?」見たことのない仕草に、稜佳が歓声をあげました。

「これ?」と蟹の仕草をしてみせ、「Finger Quotes(フィンガークオート)よ。欧米ではよく使うジェスチャーなの」

「お仕置きっていう意味?」

 マスターは笑って首を振りました。

「違うわよ。強調したい単語に使うの。たとえばね、必ず "帰ってくる” !」と稜佳に向けてフィンガークオートを使ってみせました。

 稜佳は一来の視線をつかまえると、ゆっくりを両手を肩のあたりにあげて、一来にも同じことをするように目で促しました。

「"りょーかい” !」

 稜佳の言葉に合わせて一来も、やや照れくさそうに両手の指を曲げました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み