第163話

文字数 685文字

『キラルの扉に部屋の中身はすべて飲み込まれたはずでは?』
「似たものを買ってもらったんだ。突然部屋の中身がなくなってたって言って」

奏多の両親は理由はわからないものの、奏多が部屋の中の机やベッドを捨てる理由も運ぶこともできないと判断し、それ以上の追及はせず、奏多への影響を心配して、同じような商品を買いそろえたそうです。

「悪いと思ったけど説明のしようがないし。これから親孝行する」

奏多は肩をすくめてそういうと、私にベッドに座るよう、手ですすめました。奏多自身は楕円形の毛足の長いシャギーラグに直接座り、曲げた膝を手で抱えます。膝の上には大きめのクッションを乗せて、顎をうずめました。

『ブルーのハンカチは誰に返したのですか?』
「わからないんだ……」
『わからない? どういうことですか?』

「最初は、冬矢クンだと思ったけど……」奏多は眉をひそめて慎重に言う。「ボクがハンカチを返すために冬矢クンに会いに行った時、最初は以前に会った時と変わっていないと思ったんだ。だからキラル世界で会ったエナンチオマーじゃないって感じた」

『ハンカチの持ち主は冬矢なのですね? ではハンカチを貸してもらったのは、彌羽(みわ)学園の文化祭の時なのですか?』

「うん。実はね、あの時、中学の同級生もたくさん来ていたんだ。すれ違う男子達が強く背中を叩いたりしながらキズトンってからかってきて、そのうちの一人が後ろから飛び蹴りしてきて、背中を蹴られて転んじゃったんだ。

その子たちは、『やっべー』とか言って逃げて行った。恥ずかしいし痛いし、もう帰ろうかと思って立てずにいたら、冬矢クンが声をかけてくれたんだ……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み