第108話
文字数 832文字
稜佳が私の髪を激しくかき混ぜてきたので、頭がグラグラ揺れます。マスターがケタケタと声を立てて笑いました。その拍子に、ベンチに置いてあった空っぽの白玉ミルクティーの容器に手がぶつかって倒れ、軽い容器が束の間、ふらふら揺れました。
「おっと」
稜佳が容器を手で受け止め、ベンチに立て直しました。
「だって、あの時はさ……、ゴスメどころか、バンドやってくれる子もいなくて。Death Crowが唯一の拠り所だったっていうか……」と小さく言いました。
「今は、……」
(アイラと一来がいるから)
照れくさいのでしょう。稜佳は口をつぐむと、チラッとマスターを見て、すぐに視線をそらしました。
稜佳が呑み込んだ言葉は、それでもマスターには届いたようです。マスターは真っ赤になって、プイッとそっぽを向きました。腕を胸の前で組んだのも、跳ねる心臓を抑え込むためでしょう。
『よかったじゃない、アイラ』
からかうように言うと、稜佳が「フラーミィもだよ!」と私の腕を揺さぶりました。
『えっ、あたしも……?』
「ああーら、よかったじゃない。フラーミィ」
暖かくなった胸にマスターが水をさしてきます。しかしこれは好都合。照れるなど、影には不似合いですから。気を取り直してすかさず反撃しました。
『ええ、もちろんです。私のような影は、人と出会う機会はとても限られておりますから、可愛らしいお友達ができてとっても嬉しい!』
「フラーミィとちびアイラの言葉と声が混じっているわよ!」
マスターはフフン、と鼻を鳴らし、勝ち誇ったように胸を反らしました。しかしマスターの声も音符がついているように語尾が跳ね上がり、口元が緩んでいるのは、ごまかせていません。
(この勝負は引き分け……、いえ、稜佳の一本勝ち、かもしれませんね)
私はコホン、と咳払いしました。
『さて。それでは私たちのもう一人の友人について、検討いたしましょう』
高い幼女の声はどうも締まらないので、姿はちびアイラのままで、声は私本来の声にもどしました。
「おっと」
稜佳が容器を手で受け止め、ベンチに立て直しました。
「だって、あの時はさ……、ゴスメどころか、バンドやってくれる子もいなくて。Death Crowが唯一の拠り所だったっていうか……」と小さく言いました。
「今は、……」
(アイラと一来がいるから)
照れくさいのでしょう。稜佳は口をつぐむと、チラッとマスターを見て、すぐに視線をそらしました。
稜佳が呑み込んだ言葉は、それでもマスターには届いたようです。マスターは真っ赤になって、プイッとそっぽを向きました。腕を胸の前で組んだのも、跳ねる心臓を抑え込むためでしょう。
『よかったじゃない、アイラ』
からかうように言うと、稜佳が「フラーミィもだよ!」と私の腕を揺さぶりました。
『えっ、あたしも……?』
「ああーら、よかったじゃない。フラーミィ」
暖かくなった胸にマスターが水をさしてきます。しかしこれは好都合。照れるなど、影には不似合いですから。気を取り直してすかさず反撃しました。
『ええ、もちろんです。私のような影は、人と出会う機会はとても限られておりますから、可愛らしいお友達ができてとっても嬉しい!』
「フラーミィとちびアイラの言葉と声が混じっているわよ!」
マスターはフフン、と鼻を鳴らし、勝ち誇ったように胸を反らしました。しかしマスターの声も音符がついているように語尾が跳ね上がり、口元が緩んでいるのは、ごまかせていません。
(この勝負は引き分け……、いえ、稜佳の一本勝ち、かもしれませんね)
私はコホン、と咳払いしました。
『さて。それでは私たちのもう一人の友人について、検討いたしましょう』
高い幼女の声はどうも締まらないので、姿はちびアイラのままで、声は私本来の声にもどしました。