第198話
文字数 1,029文字
「奏多っ! 黒の鏡の中の本物の冬矢に呼びかけて!」
マスターが奏多と稜佳を背中に守りながら、指示しました。鏡の中の冬矢に呼びかけ、本体の冬矢を引き出すつもりなのです。奏多はハッとしたように、うなずきました。
「冬矢先輩っ! ボクの声、聞こえますか?」
エナンチオマーと影の冬矢もマスターの狙いにすぐに気が付きました。エナンチオマーの瞳が怒りで焼かれ収縮し始めます。
モンスターママは息子の顔が異形に歪んでいく様を、目を見開き、見つめています。なんども目をまばたきし、ではこちらが本物なのかと左の冬矢を見て、絶望が浮かびました。
「冬矢はどこ……? 冬矢をどこへやったの? 返してえっ……!」と叫んで、左の冬矢の足にしがみつきます。
「ようやく……、分かったの? 俺も奴も息子じゃないって。でももう遅いよ……。黒い精命は溜まってしまった。冬矢は黒い精命が溜まる前に、もしあなたが本当の冬矢を見つけてくれたら、鏡から出るっていう賭けをしていたんだから……」
「そうだ! もうリアルの冬矢は要らない! 俺がいるから! お前なんか要らないんだ! 消えろ、冬矢! 消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ……」
エナンチオマーが黒い鏡に向かって叫ぶ。黒の鏡はその言葉に反応するようにさらに漆黒に染まっていきます。
「勝手なこと、言うなああああああ!」
マスターが飛び出して笑い続けるエナンチオマーの顔を殴りつけました。無防備に殴られたエナンチオマーの顔がひしゃげ、首がグキッと音をたててぐるりと回った。
「ちょっ! なに? 気持ち悪っ……!」
拳に首が捻じれる感触が伝わり、殴ったマスターの方が悲鳴をあげました。
「痛いじゃないか……」
エナンチオマーは両手で顔を持つとグキッ、グキッと音を立てて正面にもどしますが、完全には戻らず、頭が傾いています。まるでかわいらしく、「ね?」と言っているようです。
「でも俺は今、とても機嫌がいいんだ。白の鏡をくれよ。そうしたら許してやる」
奏多がマスターの後ろから飛び出して、黒の鏡を奪おうと手を伸ばしました。エナンチオマーは瞳も動かさずに奏多の首を手で掴みました。奏多の手が血の気を失い、みるみる白くなっていきます。それでも奏多は黒の鏡に指先を伸ばしましたが、あと一センチのところで届きません。
ピンと伸ばされた奏多の指先が、もっと伸びようと震えています。その指先をわざとかすめて、エナンチオマーは奏多をつかまえているのとは反対の手で、黒の鏡を取り上げました。
マスターが奏多と稜佳を背中に守りながら、指示しました。鏡の中の冬矢に呼びかけ、本体の冬矢を引き出すつもりなのです。奏多はハッとしたように、うなずきました。
「冬矢先輩っ! ボクの声、聞こえますか?」
エナンチオマーと影の冬矢もマスターの狙いにすぐに気が付きました。エナンチオマーの瞳が怒りで焼かれ収縮し始めます。
モンスターママは息子の顔が異形に歪んでいく様を、目を見開き、見つめています。なんども目をまばたきし、ではこちらが本物なのかと左の冬矢を見て、絶望が浮かびました。
「冬矢はどこ……? 冬矢をどこへやったの? 返してえっ……!」と叫んで、左の冬矢の足にしがみつきます。
「ようやく……、分かったの? 俺も奴も息子じゃないって。でももう遅いよ……。黒い精命は溜まってしまった。冬矢は黒い精命が溜まる前に、もしあなたが本当の冬矢を見つけてくれたら、鏡から出るっていう賭けをしていたんだから……」
「そうだ! もうリアルの冬矢は要らない! 俺がいるから! お前なんか要らないんだ! 消えろ、冬矢! 消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ……」
エナンチオマーが黒い鏡に向かって叫ぶ。黒の鏡はその言葉に反応するようにさらに漆黒に染まっていきます。
「勝手なこと、言うなああああああ!」
マスターが飛び出して笑い続けるエナンチオマーの顔を殴りつけました。無防備に殴られたエナンチオマーの顔がひしゃげ、首がグキッと音をたててぐるりと回った。
「ちょっ! なに? 気持ち悪っ……!」
拳に首が捻じれる感触が伝わり、殴ったマスターの方が悲鳴をあげました。
「痛いじゃないか……」
エナンチオマーは両手で顔を持つとグキッ、グキッと音を立てて正面にもどしますが、完全には戻らず、頭が傾いています。まるでかわいらしく、「ね?」と言っているようです。
「でも俺は今、とても機嫌がいいんだ。白の鏡をくれよ。そうしたら許してやる」
奏多がマスターの後ろから飛び出して、黒の鏡を奪おうと手を伸ばしました。エナンチオマーは瞳も動かさずに奏多の首を手で掴みました。奏多の手が血の気を失い、みるみる白くなっていきます。それでも奏多は黒の鏡に指先を伸ばしましたが、あと一センチのところで届きません。
ピンと伸ばされた奏多の指先が、もっと伸びようと震えています。その指先をわざとかすめて、エナンチオマーは奏多をつかまえているのとは反対の手で、黒の鏡を取り上げました。