第54話

文字数 652文字

「アイラちゃん、蜘蛛、怖くないの?」
テーブルに戻ってきたアイラに稜佳が聞きました。
「虫、私は苦手なんだよね」と、首を左右にぶるぶる振って、両腕で自分を抱きしめました。

「あの子は使い魔を貸してくれたのよ。怖い訳ないじゃない」

 どうやら先ほどモンスターママに放ったのは、あの蜘蛛の影だったようです。しかしあの蜘蛛は、本体もマスターに懐いてしまったように見えました。

ーーふむ。小さな生き物は影の影響を受けやすいのかもしれませんねーー

 そう思いながら、私はパフェのグラスに手を伸ばしました。

「あの子だって私のことが好きなのよ。すぐにわかったわ!」

 マスターは機嫌よく、フォークに刺さったままになっていたイチゴを口に放り込み、威勢よくかみ砕いてゴクンと喉を鳴らしました。
 そしてふいに稜佳に向き直ると「それで?」と言いました。

「は?」

 稜佳は、口を中途半端に開いて、キョトンとアイラを見つめ返しました。何を言われているのかわからないのでしょう。

 仕方ありませんね。この機を逃したら次は訪れないかもしれません。幸運の神様は前髪しかない。だから過ぎ去ったらはの後頭部は滑ってつかめない……とは、上手いことを言った人間がいたものです。表現に優雅さは全くないですが。

「稜佳のお願いを言ってみたら? っていうことみたい」

 ミニアイラの小鳥のさえずりのような声で、稜佳に幸運の女神の前髪をつかんで手渡しました。

「あ、あーっ、と。言っていいのね?」

稜佳は小さな声で私に確認を取る。頷いてみせると、息を吸い込み、突然、叫びました。
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