第24話

文字数 569文字

「本物の識里さんはどこだ!」一来が叫びました。
「あっちの部屋。もしまだ、影になっていなかったらね?」

 識里の影が、閉まっているドアを指さしました。
 マスターが一来を振り返ってうなずきました。助けに行け、という意味のようです。一来はマスターにうなずきかえすと、識里の影が指差した部屋に飛び込みました。影には一来を警戒する様子はまったくありません。人間には何もできないと思っているにせよ、本体を助け出されたら、影にとっては困った事態のはずです。

 不思議に思っていると、「あれえ? 誰もいない」という一来の声が聞こえてきました。
 ガタン、バサッ、そしてやみくもに走り回る足音。どうやら識里が見当たらないので、部屋のあちこちの物をひっくり返して探しているようです。しかしいつまでも音が止まりません。

「あの部屋にホンモノがいるって嘘だったの?」
「まさか。嘘なんかついてないよ」

 識里はおかしそうに、クスクス笑っています。もちろん種明かしをする気は毛頭ないようです。

「行って、探してくれば? まあ、見つからないと思うけどね」

 マスターは眉を寄せると、踵を返して識里に背を向けました。敵に背中を向けるというのは、本来なら諌めるべき振る舞いです。が、この場合は私への信頼と受け取りましょう。
「行くわよ、黒炎」と、マスターが私の正しい名を呼んだのですから。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み