第124話

文字数 558文字

「ただ、奏多をほんの少し休ませてあげたかったんだ。あだ名とか嫌がらせとか、そんなものは時間がたてばおさまると思った。だけど本人が消えてしまうなんて」

「奏多ちゃん、どこへ行っちゃったの……?」
『どこか見えない場所に隠れているのではないですか?』
「よく探したし、鏡の中に呼びかけてもみたけど、どこにもいないんだ」

 紅霧に視線を走らせると、やはり首を横に振りました。
稜佳の途方にくれたような質問が、ゆっくりとみんなの頭の中を巡ります。
 奏多はどこへ消えたのか……?
 影が自由に歩き回っているため、奏多は鏡に囚われているような状態です。自力で鏡から出ることは出来ません。まして一来や稜佳と違い、奏多の精命の量は多くはないのですから、鏡の中でも動き回るのは難しいはず。

奏多との絆が切れてしまったのなら、とっくに力をうしなっているはずの奏多の影も、なんとか自力で座っています。

――……奏多の姿はどこにもなく、影もかろうじて精命を受け取ることができている、となると……。

『まさか……! キラルの扉を開けてしまったのですか?』
「そうかもね」

 紅霧が銀細工の鏡を差し出して見せるのももどかしく、その手から奪い取って覗き込みました。

『やはり……』

鏡は外の世界を映し出さず、よく見ると鏡に映し出された部屋の扉が三分の二ほど開いています。
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