第177話

文字数 643文字

「……黒の鏡に血を入れると、冬矢先輩はすぐに回復した。真っ白だった顔に血の気が戻り、呼吸が安定して。流れ続けていた涎も止まった。でもそれまでに精命をかなり失っていたせいなのか、意識は戻らずそのまま眠りこんでいたけど。

その時、姿を隠していたエナンチオマーが笑いながら姿を表したんだ。これで黒の精命を貯められる、って笑い転げていた。そして僕からナイフを奪って振りあげた。
……切られるって思った時、マミが突然どこからか飛んで来て、エナンチオマーの顔に飛びかかったんだ」

「マミちゃん、すごい……」マミの死を一瞬忘れて、稜佳が歓声をあげ、すぐに「あ……」と口を抑えました。

「うん。マミは、すごかったよ。エナンチオマーの目の中に飛び込んだんだ。だけどすぐにはたき落とされて、地面に落ちたところを、思い切り踏みつけられた。それからエナンチオマーは足を踏みにじった。あいつらが去った後、マミを見たら原型も」

「やめて! それ以上聞かなくても分かるよ……」
「うん……、ごめん」

そういえば一来が倒れていた場所には、血だまりがありました。

『一来、もしかして……、死んだマミの体に』
「言わないで、フラーミィ。そんなこと結局、無駄だったんだから」

一来は私の言葉を遮ったが、一来が倒れていた時にあった血だまりは、死んだマミの上に、一縷の望みをかけて、一来が精名を与えた名残だったのでしょう。鏡に血を落とし、一来は、すでに血を失っている状態のところに、さらにマミに血を与え続けたので、貧血を起こして意識を失ったのです。
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