第157話

文字数 686文字

 マスターは銀色の鋏で素早く髪の先、一センチほど切ってマミの影に差し出しました。蜘蛛の影がマスターの手に伸び、髪の精命を食べるとプルルッと身を震わせます。

「えーっ! じゃあマミちゃん、この事件を知っているの?」

『最初の事件がおこったとき、現場が近かったのでマミを放ってしばらく張らせていたのです。姿を消したエナンチオマーの足取りはまだ掴めていませんので、念のために』

 エナンチオマーの話をすると、右腕が疼きます。影の私は見た目には変わりなくマスターの腕を映していますが、実のところ失った影の一部は返ってきてはいません。右腕だけ空っぽの筒のように精命が薄いのです。

エナンチオマーが冬矢を狙うだろうということは予測がつきますが、入れ替わりに必要な白の鏡も狙っているはずです。エナンチオマーの行方を追いたいところですが、マスターから離れるわけにはいきません。

「マミちゃんは天性のハンターだから、食べ物は現地調達できるのよ。コンビニで買ったあんぱん食べてる二人組の刑事なんかよりも、優秀な調査員なんだから」

 マスターは現場で犯人を追っている刑事には聞かせられない暴言を得意気にのたまいます。

『失礼ですよ、マスター。実のところ、マミは現場の刑事達の会話から情報を得たのですから』
「それでそれで?」稜佳と一来が興味津々といった様子で、体を乗り出します。

『被害者は三人とも、塩山中学校の男子学生でした』
「塩山……?」

 どこかで聞いたような? と首をかしげるマスターに、一来と稜佳のツッコミが完璧に重なりました。

「奏多(ちゃん)の学校だろ(だよ)」」
「……うるさいわね、わかっていたわよ」
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