第61話
文字数 944文字
一来のへっぴり腰の度合いは増し、腕にきつくしがみ付いてきます。私の胸の高さに、一来の頭があり、髪から一来の精命の香りがふわりとただよってきました。
一来の甘美なマナの味を思いだし、舌で唇を舐めました。いやいや、一来の血以外の精命は微々たるもので味気なかったですね……、と、試食しそうになった自分を諫めました。
一来の腕を軽く引くようにして歩を進めていくと、今度ははっきりとした声が聞こえてきました。
「お願いしましたよねえ? どうなっているんですか?」
「……それはちょっと……あの……」
『浅葱先生とやらの声ですね』
「また来てるんだ、あのモンスターママ。このところ、しょっちゅう来るんだよ」
一来はへっぴり腰のまま、新校舎に足を向けました。何をするつもりかは分かりませんが、闇を怖がっているのに助太刀に行こうしているのは、なかなか侠気のある行動と言えるでしょう。
「ちょっとフラーミィ! 帰らないの?」
一来と一緒に新校舎へ行こうとすると、マスターが引き留めました。
『一来に腕を取られているので、仕方がないのです』と言い訳をしておきます。本当は面白そうだから見に行こうとしていたのですが。
「引き剥がせばいいじゃないの」
マスターの言葉に、稜佳も隣で頷いています二人とも面倒な事には関わらず、早く帰りたいだけでしょう。
「それなら! 言わせてもらうけど、この前のファミリーレストランで足りないお金を支払ったのは誰? 僕でしょうが!」
稜佳が頸を亀のようにすくめました。
「ごめんごめん。だってギリギリしかお金持ってなかったから、チビアイラたんの分が足りなくて。Death Crowのヴォーカルの火野様は、めったにオフィシャルグッズ発売しないから貴重なの。絶対すぐに売り切れちゃうから買ったばかりで余分な持ち合わせがなくて……」
お金が足りなかった。これがファミリーレストランで稜佳が問題が二つある、と言っていたうちの一つ目です。
「買っちゃったから、お金がなかったと」眼鏡の奥で一来の目が光りました。
「ま、まあまあまあまあ」稜佳は両手を胸の前に上げて、降参しました。「私たちも一緒に行くから。ねっ? 」
「私は帰る」
二人のやり取りを見ていたマスターは、首を一回すくめ、生徒用の通用門に足を向けました。
一来の甘美なマナの味を思いだし、舌で唇を舐めました。いやいや、一来の血以外の精命は微々たるもので味気なかったですね……、と、試食しそうになった自分を諫めました。
一来の腕を軽く引くようにして歩を進めていくと、今度ははっきりとした声が聞こえてきました。
「お願いしましたよねえ? どうなっているんですか?」
「……それはちょっと……あの……」
『浅葱先生とやらの声ですね』
「また来てるんだ、あのモンスターママ。このところ、しょっちゅう来るんだよ」
一来はへっぴり腰のまま、新校舎に足を向けました。何をするつもりかは分かりませんが、闇を怖がっているのに助太刀に行こうしているのは、なかなか侠気のある行動と言えるでしょう。
「ちょっとフラーミィ! 帰らないの?」
一来と一緒に新校舎へ行こうとすると、マスターが引き留めました。
『一来に腕を取られているので、仕方がないのです』と言い訳をしておきます。本当は面白そうだから見に行こうとしていたのですが。
「引き剥がせばいいじゃないの」
マスターの言葉に、稜佳も隣で頷いています二人とも面倒な事には関わらず、早く帰りたいだけでしょう。
「それなら! 言わせてもらうけど、この前のファミリーレストランで足りないお金を支払ったのは誰? 僕でしょうが!」
稜佳が頸を亀のようにすくめました。
「ごめんごめん。だってギリギリしかお金持ってなかったから、チビアイラたんの分が足りなくて。Death Crowのヴォーカルの火野様は、めったにオフィシャルグッズ発売しないから貴重なの。絶対すぐに売り切れちゃうから買ったばかりで余分な持ち合わせがなくて……」
お金が足りなかった。これがファミリーレストランで稜佳が問題が二つある、と言っていたうちの一つ目です。
「買っちゃったから、お金がなかったと」眼鏡の奥で一来の目が光りました。
「ま、まあまあまあまあ」稜佳は両手を胸の前に上げて、降参しました。「私たちも一緒に行くから。ねっ? 」
「私は帰る」
二人のやり取りを見ていたマスターは、首を一回すくめ、生徒用の通用門に足を向けました。