第5話

文字数 474文字

少年は駅前のアーケードを迷うことなく歩いて行きます。道の両側には小売店が並び、歩行者天国になっています。

一来(いっき)君、この前はありがとねぇ」

 揚げ物の良い香りがする店先から、少年に声がかけられました。白い三角巾を頭にきっちりとしばった、まんまるい顔の女性が、おいでおいでと手招きしています。ショーケースの中には、様々な肉が置かれています。いい匂いが漂ってくるのは、惣菜も作っているせいでしょう。

「ありがとう。腰はもう大丈夫?」
「もう大丈夫だよ。あの時は助かったよ。ね、コロッケ、持ってって」

(あやつ、いっきという名前なのか)と思っていると、「おいしそうね、あのコロッケ」上からマスターの声が聞こえました。マスターには、少年の名前よりもコロッケの方が重要なようです。

 一来が立ち去ったところで、コロッケを買いに肉屋に立ち寄ろうとするマスターの足を引っ張りました。見失ったらどうするつもりなのでしょう。当然、マスターはトットとよろめきました。

「ちょっと! フラーミィ、やめてよ!」

 ブツブツと言いつつも、マスターはコロッケを諦め、一来の後を歩き出しました。
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