第88話
文字数 559文字
その時、ガタガタと教室のドアが開く音がして、社会科係が資料を両腕に抱えて入ってきました。手を使えないため、肩で引き戸をあけたようですが、一来はそれに気が付く事もなく、ぼんやりと頬杖を付いたままです。
いつもなら一来は影の私が気付くよりも素早く、社会科係の隣に出現し、さりげなく資料を半分分け持って教壇まで運んであげているはずです。マスターと稜佳はお互いの顔に浮かんだハテナマークを確認するように、見つめあいました。
「何かあったのかな? 一来君の困っている人レーダーが曇るなんて……」
稜佳は、考え込んでいる一来の横顔に向かって心配そうに呟いていましたが、急にハッとしたように身を翻すと私に視線を移しました。
「そうだ! ねえ、フラーミィ。今日の帰り一来君のあとをつけられない?」
「ちょっと! いつも言っているじゃない。私は他人のために……」
マスターが言いかけるのを、『はいはい』と軽く遮って、『残念ですが、一来に限って、それはできません。香りで後を付けていることがバレてしまいますから』と、説明しました。
「そうなの? そっか。一来君、鼻がいいんだね。残念。じゃあどうする? アイラちゃん」
「仕方ないわね。でもまあ、私も気になるし。わかった。任せておいて」
マスターはめずらしく人助けにやる気を見せて、うなずきました。
いつもなら一来は影の私が気付くよりも素早く、社会科係の隣に出現し、さりげなく資料を半分分け持って教壇まで運んであげているはずです。マスターと稜佳はお互いの顔に浮かんだハテナマークを確認するように、見つめあいました。
「何かあったのかな? 一来君の困っている人レーダーが曇るなんて……」
稜佳は、考え込んでいる一来の横顔に向かって心配そうに呟いていましたが、急にハッとしたように身を翻すと私に視線を移しました。
「そうだ! ねえ、フラーミィ。今日の帰り一来君のあとをつけられない?」
「ちょっと! いつも言っているじゃない。私は他人のために……」
マスターが言いかけるのを、『はいはい』と軽く遮って、『残念ですが、一来に限って、それはできません。香りで後を付けていることがバレてしまいますから』と、説明しました。
「そうなの? そっか。一来君、鼻がいいんだね。残念。じゃあどうする? アイラちゃん」
「仕方ないわね。でもまあ、私も気になるし。わかった。任せておいて」
マスターはめずらしく人助けにやる気を見せて、うなずきました。