第65話
文字数 1,320文字
文化祭が近づき、校内に何カ所もある掲示板に、色とりどりのポスターが貼られ出しました。マスターのクラスの教室の後ろには、人間よりも大きなアイスクリームが描かれた段ボールが立てかけられています。アイスクリームショップをする予定なのです。灰色の校舎内がカラフルになっていくごとに、どことなく学校全体が浮き足立ってくるようでした。
「僕たちもポスター位、作った方がいいんじゃない?」
掲示板に貼られているポスターを眺めていた一来が、稜佳を振り返りました。
「ふっふーん。じゃあ、ハイっ。これ」
稜佳は腕に下げていた紙袋から、紙の束と画鋲を出して一来に手渡しました。
「おおっ! これって俺たちのポスター?」
一来が手にしている紙の束には、練習中に撮ったバンドのシルエットの写真が印刷されています。モノクロームの紙面に赤でDeath Clownというバンド名と王冠をモチーフにしたロゴ。
「CrowとClownって……」自分たちのバンド名を初めて聞かされた一来は目を見開きました。「似てる……よね?」
稜佳が心酔している火野と府川虎のバンド名はDeath Crowです。
「似てないよ。カラスと王冠だよ? なんならこっちの方が格好いいかも」
「いや、英語で見ると似てるよね? 本物が来ると勘違いするんじゃない? 俺たちの写真はシルエットだし」
女性のアイラと男性の火野では、間違えようがないようですが、Death Crowのボーカル火野は、細身の体型で長いコートのような服を着ているので、シルエットだけだとロングスカートを履いた女性のように見えることもあるのです。
「ここに、説明が書いてあるから平気。ほら、Death Crowの曲に乗せてオリジナルの歌詞を歌いますって」
「本当だ……」
「えっ、本物? って思わせて、ポスターを見てくれれば、コピーバンドをやるってわかるでしょ? それで見に来てくれれば万事オッケー。興味を引かないとゴスメタルやりますよ、ってことが認知されないじゃない」
「なるほどねー」
一来はポスターに目を落として、頷きました。Death Crowは翼を広げた大きなカラスのシルエットがロゴマークの後ろに入っているロゴが定番です。マスター達のバンドは王冠とDeath Clownという文字を組み合わせたロゴになっていて、雰囲気は似せているものの、全く違います。
「じゃあ貼ってくるよ、って、これ全部? 稜佳ちゃん達は貼らないの?」
「私達は浅葱先生の所に当日の音響の相談に行かないといけないから」
「稜佳ちゃんは分かったけど、アイラは関係ないんじゃない? けっこう沢山あるから手分けして貼った方が」
「フラーミィに相談しながら、決めたいのよ。スピーカーの位置とか照明の当て方とか。二人羽織りの状態のフラーミィが見えないように、逆光気味にしたいんだよね。まあ、一来君が一人でドラムを叩けるなら、アイラちゃんにポスター半分貼ってもらうけどねー」
「わ、わかった、貼ってくる。一人で叩くなんて絶対に無理!」
さらに言い募る稜佳から逃げ出すようにして、一来は足を踏み出しました。しかし急な方向転換のせいで、両腕の上に何枚も重ねて乗せられていた紙がずれて滑りました。
「僕たちもポスター位、作った方がいいんじゃない?」
掲示板に貼られているポスターを眺めていた一来が、稜佳を振り返りました。
「ふっふーん。じゃあ、ハイっ。これ」
稜佳は腕に下げていた紙袋から、紙の束と画鋲を出して一来に手渡しました。
「おおっ! これって俺たちのポスター?」
一来が手にしている紙の束には、練習中に撮ったバンドのシルエットの写真が印刷されています。モノクロームの紙面に赤でDeath Clownというバンド名と王冠をモチーフにしたロゴ。
「CrowとClownって……」自分たちのバンド名を初めて聞かされた一来は目を見開きました。「似てる……よね?」
稜佳が心酔している火野と府川虎のバンド名はDeath Crowです。
「似てないよ。カラスと王冠だよ? なんならこっちの方が格好いいかも」
「いや、英語で見ると似てるよね? 本物が来ると勘違いするんじゃない? 俺たちの写真はシルエットだし」
女性のアイラと男性の火野では、間違えようがないようですが、Death Crowのボーカル火野は、細身の体型で長いコートのような服を着ているので、シルエットだけだとロングスカートを履いた女性のように見えることもあるのです。
「ここに、説明が書いてあるから平気。ほら、Death Crowの曲に乗せてオリジナルの歌詞を歌いますって」
「本当だ……」
「えっ、本物? って思わせて、ポスターを見てくれれば、コピーバンドをやるってわかるでしょ? それで見に来てくれれば万事オッケー。興味を引かないとゴスメタルやりますよ、ってことが認知されないじゃない」
「なるほどねー」
一来はポスターに目を落として、頷きました。Death Crowは翼を広げた大きなカラスのシルエットがロゴマークの後ろに入っているロゴが定番です。マスター達のバンドは王冠とDeath Clownという文字を組み合わせたロゴになっていて、雰囲気は似せているものの、全く違います。
「じゃあ貼ってくるよ、って、これ全部? 稜佳ちゃん達は貼らないの?」
「私達は浅葱先生の所に当日の音響の相談に行かないといけないから」
「稜佳ちゃんは分かったけど、アイラは関係ないんじゃない? けっこう沢山あるから手分けして貼った方が」
「フラーミィに相談しながら、決めたいのよ。スピーカーの位置とか照明の当て方とか。二人羽織りの状態のフラーミィが見えないように、逆光気味にしたいんだよね。まあ、一来君が一人でドラムを叩けるなら、アイラちゃんにポスター半分貼ってもらうけどねー」
「わ、わかった、貼ってくる。一人で叩くなんて絶対に無理!」
さらに言い募る稜佳から逃げ出すようにして、一来は足を踏み出しました。しかし急な方向転換のせいで、両腕の上に何枚も重ねて乗せられていた紙がずれて滑りました。