第197話
文字数 575文字
稜佳のつぶやきを聞くと、右の冬矢が笑い出しました。
「アハハハハハハハ! よくやった、冬矢。これで黒の精命は溜まったらしい!」
「っ冬矢先輩……、これで満足なんですかっ? ボクは……、ボクは!」
奏多が一歩近づき、叫びました。
「黙ってろって言っただろ?」
エナンチオマーらしい右の冬矢が、奏多を睨み、低い声で威嚇しました。
「こ、答えは教えてないだろ? ボクは冬矢先輩がこんなこと望むとは思えない。先輩の気持ちを聞かせてよっ」
「うるさいうるさいうるさい!」
左の影の冬矢がモンスターママの首から手を離し、両手で耳を塞ぎました。モンスターママが冷蔵庫に背中を預けてズルズルと床に座り込んでせき込みます。
エナンチオマーが壁に突き刺さった包丁を引き抜き、奏多に向かって投げました。
「キャアッ! 奏多ちゃん……!」
稜佳が悲鳴を上げて奏多に飛びつきました。細身の刺身包丁が、銀色の魚のようにギラリと蛍光灯の光を反射します。
「黒炎!」
「承知しております、アイラ」
返事をするよりも素早く、稜佳と奏多の腕を掴んで引き寄せ、刃の進行方向から逸らします。代わりに私の腕を包丁が切り裂くと思われたその刹那、黒い鞭がひゅんっと音を立て、空中で包丁を叩き落としました。
「ありがとうございます、紅霧」
紅霧が流し目を寄こし、唇に笑みを刷きました。紅い舌が得意げにチロリと唇を舐めます。
「アハハハハハハハ! よくやった、冬矢。これで黒の精命は溜まったらしい!」
「っ冬矢先輩……、これで満足なんですかっ? ボクは……、ボクは!」
奏多が一歩近づき、叫びました。
「黙ってろって言っただろ?」
エナンチオマーらしい右の冬矢が、奏多を睨み、低い声で威嚇しました。
「こ、答えは教えてないだろ? ボクは冬矢先輩がこんなこと望むとは思えない。先輩の気持ちを聞かせてよっ」
「うるさいうるさいうるさい!」
左の影の冬矢がモンスターママの首から手を離し、両手で耳を塞ぎました。モンスターママが冷蔵庫に背中を預けてズルズルと床に座り込んでせき込みます。
エナンチオマーが壁に突き刺さった包丁を引き抜き、奏多に向かって投げました。
「キャアッ! 奏多ちゃん……!」
稜佳が悲鳴を上げて奏多に飛びつきました。細身の刺身包丁が、銀色の魚のようにギラリと蛍光灯の光を反射します。
「黒炎!」
「承知しております、アイラ」
返事をするよりも素早く、稜佳と奏多の腕を掴んで引き寄せ、刃の進行方向から逸らします。代わりに私の腕を包丁が切り裂くと思われたその刹那、黒い鞭がひゅんっと音を立て、空中で包丁を叩き落としました。
「ありがとうございます、紅霧」
紅霧が流し目を寄こし、唇に笑みを刷きました。紅い舌が得意げにチロリと唇を舐めます。