第120話

文字数 540文字

「いいけど、後で。約束があるから」影が聞きくぐもった小さな声で答えました。
「それなら、一緒に行くわ」

マスターは一方的に宣言すると、返事も聞かずに先陣を切って歩き出しました。

「え? アイラちゃん、行き先知ってるの?」

稜佳がマスターと影をオロオロと交互に見ます。

「そういえば、そうね。奏多、どこに行くの?」と、マスターが影を振り返ると、影の体が左右に揺れています。「え? ちょっと、どうしたの?」マスターがけげんそうに眉をひそめました。

「あれ……? な、んか、おか、しい……」

 影の輪郭が揺らぎ、ぐらりと倒れかかります。私はとっさに人型になって、奏多の影を抱き留めました。

「フラーミィ、影が倒れるなんてどういうこと?」マスターが眉をひそめます。
『そうですね。考えられるのは、マナが足りなくなったか本体の危機か、または……おっと』

 坂の下から駆け上がってくる人物に目が留まり、言葉を切りました。

「どうしたの?」

 マスターが訝しげに問いかけましたが、私と同様にその人物に目を留めると、「あら」と言って黙り込みました。マスターの唇が美しい弧をゆっくりと描きます。しかし本来ほほえみであるはずの形の唇は、なぜか残酷な出来事のフラグにしか見えません。ああ、目が少しも笑っていないせいでしょうか?
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