第44話

文字数 408文字

「入らないんなら、帰るわよ」

 マスターが嬉しそうに言いました。稜佳にむりやり職員室へ引っ張って来られただけで、マスターに用事はないのです。

「浅葱先生、大丈夫かな……」

一来が声を潜めて、私に話しかけてきました。

『さあ……?』

 私はかすかに首を傾げて見せました。

 ーーふむ。あの痩せた男性教師は浅葱というのですね……ーー

 一来は聞いてもいないのに、浅葱先生について解説し始めました。

「三年の科学の先生なんだよ、浅葱先生って。ちょっと職員室に行って、なんとかできないかな? フラー……ミ」 

「ちょっと待って。残念だけど、私は他人のために魔法を使わないことにしているの」 

 一来が言い終わらないうちに、マスターがすかさず割って入りました。

(バス待ちの列に並ぶよりも、教師を救う方が有意義な仕事だと思いますが)という言葉は飲み込んでおきました。
有意義だとしても、バスの席取りと同じくらい興味がないことにはかわりありませんから。
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