第2話

文字数 627文字

精命といえば、命の源であり、ただでさえ甘美なものです。その上、マスターの精命ともなれば、私にとっては猫にまたたびのようなもの。

『はいはい、わ・か・り・ま・し・た』

 私はマスターの足元から体を起しました。さわさわと空気が流れ、かすかなジャスミンの香りがする風となってマスターの金色の髪を陽にきらめかせました。

 マスターの性格は褒められたものではありませんが、それを差し引いても美しい。私の髪も光を放つことはないものの、鏡映しに揺れました。陽炎が熱を持たぬ炎のようにゆらゆらと立ちのぼり、見る者を幻惑するでしょう。もし見るものがいたとすれば。

 だんだんと、しかしすばやく色を身にまといます。ほんのわずか黒く透けていますが、マスターと見分けがつかないでしょう。私はすぐに走り出しました。のんびり主の隣に立っていて、双子だと誤解されてはやっかいです。

 そしてバス停の列の最後尾に並びました。つまらぬ仕事ではありますが、私の後ろには、同じ制服を着た少女少年達が次々に並び、あっという間に列が長くなってしまったところをみると、マスターの判断は正しかったのでしょう。何がなんでもバスで座りたいというのが正しい欲求だとすれば。

 バスの席が確保出来そうなことを確認すると、さりげなく周囲を見回しました。いつもと変わりないようです。そこでようやくマスターが追い付いてきました。泥棒のように身をかがめて駆け寄ってくると私に重なり……、マスターはマスターに、私は影に戻りました。
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