第１１５話

　数日後の放課後、稜佳のクラスは控え目な静寂に包まれていました。生徒たちが互いにそっと耳打ちし合ったりしてチラチラと視線を送っている先では……。

「稜佳、行くわよ」マスターが稜佳の机の前に腕を組んで陣取っています。

「アイラちゃんが私のクラスに来るの、初めてだね！」

稜佳はマスターの圧をものともせず、嬉しそうな声で言いながら、教科書をカバンに詰めていきます。

「そうだった？　そんなことどうでもいいから、早くしてくれない？　早くしないと、あの奏多とかいう子の影が下校しちゃうじゃない」

　マスターは机の上に放り出してあった青いリュックを勢いよく背負いました。置いていくわよ、と言わんばかりです。

「わかってる、わかってる。一来君より早く、奏多ちゃんの影を捕まえて、話を聞くんでしょ。アイラちゃん、お待たせっ」

ようやく稜佳が立ち上がりました。すでに歩き始めているマスターを小走りで追い越し、教室のドアに手をかけました。すると、ちょうど廊下側から教室に入ってこようとした人物とぶつかりそうになりました。