第193話

文字数 648文字

「浅葱先生に送ってもらえないかな?」稜佳はマスターの文句は聞き流して、自分の質問に自分で質問を重ねました。それから眉をひそめて「もう寝ているよね。むりかな…」と首を傾げています。

『稜佳いいアイデアですね。浅葱先生なら、冬矢の家の住所も知っているでしょう。ですが浅葱先生のご自宅は遠いので、ここまで迎えに来てもらうと遅くなってしまいます』

「仕方ないわね。フラーミィ、ママは帰ってきているよね?」
「ねえ、アイラちゃん。お母さんも事情を知っているの?」

「まぁね。今回の暴行事件については心配するから話していないけど、昔からおばあちゃんも影を使役していたし、フラーミィは家では人型だし。常識から外れた事象には慣れてるの。

なによりトラブルがあったら、寄り添い助けよ、っていうのがウィスハートの家訓だから大丈夫。そういう訳だから、稜佳は浅葱先生を叩き起こして、冬矢の家の住所を聞いておいて」と命令すると、金色の髪をひるがえして部屋を出て行きました。

マスターの母上は、寝入りばなを起こされたにも関わらず、あらましの事情を聞いただけで車を出すことを承知しました。
手早くパジャマの上にカーディガンを羽織り、厚手の靴下を履くと、黒のワンボックスカーのエンジンをかけました。

車の窓から見る夜の景色は、昼間とは違って見えます。流れ去る街灯や建物の灯りがたなびいて、初めて来る街のような顔をしています。水滴が窓にぶつかってきました。雨が降ってきたのです。ワイパーが水滴を払いますが、急に強まった雨脚が視界を奪っていきます。
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