第１８１話

「どうかしましたか、稜佳」

いくら私が影であり食事を摂る必要はないにしても、食べる直前に待ったをかけるのは非情ではないか。不快な表情をほんのわずかとはいえ浮かべてしまったのは、大目に見ていただきたいものです。

「フラーミィ、お願い！　ちびアイラちゃんになって！」
「はぁ？」

不本意ながら間の抜けた声をあげてしまいました。思わず手に持った箸を置き、そっとテーブルを見回します。マスターは自分には関係のない話だと判定したらしく、私と稜佳の方に視線も向けず、ひたすら食べ続けています。一来も体が栄養を求めているのでしょう。ためらいがちに一口食べた後は、箸が止まらなくなったようです。横目でこちらを見て気にはしているものの、やはり援護は期待できそうもありません。

「だって……。食べる時は、いつもちびアイラだったじゃない……。お願い、いつもと同じにしたいの」

「そうかもしれませんが、別にちびアイラにならなくても」と断ろうとしたのを、「お願い！」とさえぎって、両手をパンッと打ち合わせて頭を下げてきます。

　私と稜佳のやり取りを眺めていた奏多も、トラブルではないらしいと判断したのか、箸で肉団子をつまんで口に入れました。そのとたんに、目を大きく見開き、食事中グループに「美味しいですね！」と同意を求めつつ、ほおばった肉団子で頬がおちる、とでもいうように手で頬をおさえました。マスターと一来は口の中の食べ物を咀嚼するのに忙しいため、激しく首を縦にふって奏多に答えると、無言のままさらに箸の動きをスピードアップさせました。

　紅霧も「ん！　おいしいじゃないか」と言いながら、穴杓子で豆腐をすくって自分のとんすいにおかわりをよそいつけています。