第160話

文字数 611文字

古文は私の好きな授業の一つです。特に今日は「伊勢物語」の初回の授業のため、教師が教科書の文章を通して朗読しています。句読点がないせいなのか、言葉というよりは耳に心地よい調べに近い……。

「伊勢物語」の中では、主人公がちらりと見かけただけの女性に、狩衣の裾を切って恋文を書き送っています。なかなか情熱的であり、まれに見る行動力ではないでしょうか?

 現代ではスマートフォンという文明が発達しているので、SNS上でのやりとりから、探りを入れてアプローチの足がかりにするようですが、昔は探りあいなどせずにアプローチするのが普通だったのでしょうか? 

 ぜひとも男性教師の見解を聞きたいところではありますが……もちろんマスターに質問するように頼んでも無駄なことでしょうし、優秀な捜査員であるマミにも、人の気持は調べられないでしょう。

 教師の音読が終わったところで、私は奏多に会いに行くことにしました。ピュリュが犯人ではないことはわかっていますが、奏多に聞きたいことがあるのです。マスターの傍を離れるのは気が進みませんが、授業中は人目もあります。エナンチオマーが何を企んでいるにせよ、手を出しにくいはずです。

いずれにしても、6時限目の最後まで授業を聞いていては、中学の終業時間に間に合いません。中学三年の奏多は夏で部活を引退したので、授業が終わればすぐに帰宅するはずです。結局、奏多が帰宅し、マスターが授業中であるこの時間が最適なのです。
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