第180話

文字数 913文字

黒のギャルソンエプロンを身に着け、冷蔵庫を開けて食材を確認していきます。顎に手を当てて、メニューを検討していると、マスターがキッチンに入ってきました。
「フラーミィ、明日は学校が休みだし、みんな泊っていくことになったから、そのつもりで支度をお願い。奏多ももうすぐ着くと思う。ママは仕事で帰りが遅いけど、連絡して了解をもらったから」
「承知いたしました」

ではやはり、夕食はアレにしましょう……。私は一番大きな鍋を調理台の下から取り出しました。

 それから三十分後には、マスターと一来、稜佳、紅霧、ボストンバックを抱えて先ほどやってきた奏多が、ダイニングテーブルを囲んでいました。

出来上がった鍋をテーブルの真ん中に置き、もったいぶってから蓋をぱっとあけると、「わあ!」「すごくきれい!」「お店みたーい!」と湯気と共に歓声があがります。

気分が落ち込んでいるとき、人間は温かいものを食べた方がいい。悲しみは体を冷やすからです。お腹の中が温まれば元気が出て来ます。私は具材が一人一人に行き渡るよう、真っ白い磁器製の洋風の土鍋から、とんすいという器に一人分ずつ盛り付けます。耳が付いた小鉢は、同じく磁器製で肌触りがよく、白地にネイビーブルーで北欧風の柄が描いてあるものです。

シンプルな白い土鍋には、白菜と豚肉を交互に重ねたものを断面を見せるように敷き詰め、肉団子、しめじやエリンギなどのキノコ類、豆腐や水菜、薄いリボンのようにスライスした人参などを彩りよく並べてあります。急ごしらえのため、鍋の具は特別な材料が入っている訳ではありませんが、その上に鍋を覆うようにこんもりと大根おろしを盛って目を楽しませる工夫をこらしてあります。我ながらなかなかの出来栄えです。

ベースは昆布だしなので、漬けたれはゴマダレとポン酢、醤油ベースにラー油を足したピリ辛ダレの三種類を用意しました。

「おかわりはご自由にお取りください」

暖かな湯気がたちのぼりテーブルに美味しい空気が満ちました。

「いただきます」一来がそっと器を持ち上げ、箸をつけます。

真っ白だった一来の顔に朱が戻るのを確認してから、私も箸を持ったところで、稜佳が「ちょっと待ったあ!」と私の腕を抑えました。
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