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文字数 917文字


「早坂さん、わたしは大丈夫ですから守ろうとしないでください。反射神経はいいんです、自分で逃げれます。そのほうがお互い安全です」

真剣に訴えるわたしの目を、早坂さんは見つめた。そして、頭に手が乗る。

「わかったわ。あなたの身体能力、信じるわよ」

「はい」

鬼火はまた、ゆらゆらと揺れ始めた。まるで、この状況を楽しんでいるかのように。どうすれば、その本体とやらを引き出せるのか。
早坂さんは地面から太めの枝を拾うと、鬼火に向かって投げつけた。枝は鬼火に吸収されたかのようにパチパチと音を立てて燃える。

「うーん」

「意味、あるんですか?逆効果では・・・」

すると今度は、背中からナイフを取り出した。逆手に持ち、それを鬼火目掛けて投げ飛ばす。
ナイフは鬼火の体を貫通し、木に突き刺さった。

「今の見たか?」

「ええ、貫通した時、そこだけ炎が消えたわね」

「・・・効いてるって事ですか。あのナイフなら、炎を切れる?」

早坂さんは答える代わりに、何か考え込んだ。

「雪音ちゃん、お願いがあるんだけど」

早坂さんはこちらを見ずに言った。

「え?」

「車に行ってくれるかしら」

「・・・わたしはここに居ますよ」

「え?あ、いや、そうじゃないの。刀を取ってきてほしいのよ」

「・・・刀?」

「トランクの下を開けるとあるから。お願いできる?」

「あ、それって、ナイフと同じ・・・?」

早坂さんは頷いた。「そうよ」

「わかりました。行ってきます」

早坂さんはズボンのポケットから車の鍵を取り出し、わたしに渡した。

「いい、ゆっくり動くのよ」

「はい」

鬼火から目を離さず、その場から1歩2歩、後退する。距離を取った所で背を向け、走った──。そうかと思ったら、突然、背中が燃えるような熱さに襲われる。
半分振り返ったところでこっちに向かう炎が見え、わたしは地面にダイブした。

「ギャ──ッ!!」

「雪音ちゃん!!」と「中条!」の声が同時に聞こえた。

回避は成功。すぐに立ち上がる。

「大丈夫です!」

髪が燃えたんじゃないかと確認したが、無事のようだ。
しかし、前を塞がれてしまった。鬼火は逃さんとばかりにそこから動かない。それに、さっきより炎が激しさを増しているように見える。
熱さなのか緊張なのか、汗が額から顎へと滴り落ちる。
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