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早坂さんは、「そうね」と可笑しそうに笑った。
自分には皆無なこの余裕がまた、腹立たしい。本当はもっと怒って見せたいが、この笑顔を前にそれは不可能だ。
「はあ・・・じゃあ、おやすみなさい」
「今溜め息ついたわよね」
「勝手に出るんです。では」
「なんの溜め息?ねえ」
早坂さんの追及を無視してその場を離れた。アパートの階段を数段上り、振り返る。
「気をつけて帰ってくださいね。さっきの件、連絡待ってます」
早坂さんは頷き、ひらひらと手を振った。
部屋に戻り、早坂さんからのご褒美を大事に冷蔵庫へ送り届ける。そのまま着替えもせず、ベッドに仰向けに横たわった。
"あなた以外にこんな事しないわよ"
──結局、あの言葉の真意を聞く事は出来なかった。
早坂さんはなんであんな顔をするんだろう。思わせぶりな事をしたり言ったりする割に、核心を突こうとすると、困惑の表情を見せる。
そもそも、わたし以外にそんな事しないって、なんだ?逆の意味に取れば、わたしが好きだからするという事では?
──・・・一瞬でも自惚れた自分に、ビンタを喰らわせたくなった。そして、実行に移した。
都合の良いように考えるな。あの人は、一言もそんな事言ってないじゃないか。春香や一真くんの言葉を鵜呑みにしてはダメだ。
「はあ・・・」
部屋に帰ってきてから、何度目の溜め息だろう。
ねえ早坂さん、あなたの"ソレ"は、いったい何・・・?