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文字数 885文字


ふと、浮かんだのは──・・・携帯を取り出し、着信履歴を開く。
電話したところで、なんて言えば?誰かにつけられてるんで、助けてください?突然そんな事言われても、困るよね・・・。

やっぱやめた。携帯の画面をオフにした瞬間、鳴る着信音。驚いて手から滑り落ちそうになる。
──えっ!わたし、間違ってかけてないよね。

「も、もしもし」

「あ、雪音ちゃん?お疲れ様。今家かしら?」

早坂さんの声を聞いた途端、身体の力が抜けた気がした。

「・・・雪音ちゃん?」

「あ、すみません。今コンビニです」

「・・・1人で?」

「はい」

「この時間に?」

「仕事帰りなんで」

「あら、じゃあこれから電車とか?時間的に大丈夫?」

「いえ、歩いて帰ったので、家の近くのコンビニです」

「・・・歩いてって、あなた、今何時だと思ってるの?」

出た、過保護モード。「いつもこんな感じですよ。今日はちょっと、後悔してますが・・・」

「後悔?どーゆうこと?」

返しが早いし、自然と話す流れになってしまった。「なんか、後つけられちゃって」

「・・・どーゆうこと?」早坂さんの声が低くなる。

「いや、なんか、店出てから男の人につけられてるみたいで、今コンビニに逃げ込んだところです」

「警察には?」さらに低くなる。

「ついてくるだけで、何かされたわけでもないので、どうなのかなって」

電話の先から、重い溜め息が聞こえた。「そーゆう時はすぐに警察に連絡するのよ。その男は今何処にいるの?」口調でわかるのは、怒っているということだ。

「外の電柱の所に・・・」携帯とこちらを交互に見ている。

「警察が来たら逃げられる可能性もあるわね」呟き声だった。「その男の服装は?」

「え?あ、白いキャップに、たぶんグレーっぽいシャツです」

「その家の近くのコンビニって、最初に会った時、あなたが寄ったコンビニよね?」

「え・・・はい」そこから見られてたのか。

「待ってて。絶対、外に出ちゃダメよ。いいわね」

わたしが返事をする前に、電話が切れた。
待っててって、何を──?どっちにしろ、身動きが取れない。手に取った雑誌が60歳からの生き方という題名だろうが関係ない。迷惑な客になってやるんだ。
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