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只今、22時10分─。
イタリアン酒場TATSUは、恐ろしいほど、暇だ。そう、春香のあくびを数えられる程に。
「はい、16回目」
「これでも抑えてんのよ。また雨強くなったんじゃない?」
窓の外は、激しい雨が地面に打ちつけている。土曜日だというのに人通りも疎らだ。
「今日はもう、お客さん来なさそうすね」
「そうねえ、あたしでもこんな雨の日、行かないわ」
今日は朝から雨だったが、夕方から本降りになり時間と共に激しくなっている。早い時間にカウンターに3人入って以降、店のドアが開く事はなかった。予約も立て続けにキャンセル状態だ。
「天気には勝てないねえ〜」店長が店のモニターをテレビに切り替えると、ちょうどニュース
速報の字幕が表示された。
「大雨警報〜?こりゃ閉めるしかないね」
「時間的にも望み薄そうすね。ちなみに叔父んとこも今日は早く閉めるみたいっす。メール入ってました」
「ええー、凌ちゃんとこ飲みに行こうと思ったのに」
「あたしもって言いたいところだけど、さすがに今日はタクシーもいないと思いますよ」
「大丈夫。その時はここに泊まるから」
「何処でも寝れる人はいいですね。羨ましい」
「俺、寝つきいいのが取り柄だから」
「ストレス無い人って、そうらしいですよ」
「・・・今ちょっと、ストレス感じてるかも」
視界を手の平が行き来し、ハッとした。
「雪音さん?大丈夫すか?体調悪い?」
「あ、ううん。違う違う」
「どしたんすか?窓の外ボーッと見て」
「や、すごい雨だなあって」
──早坂さん、こんな雨の日にわざわざ来てくれるんだろうか。断ったほうがよかったかな。まあ、車だったら少々の事は大丈夫だと思うけど。
「雪音さん、今日はどうやって帰るんすか?」
「今日はねえ、この後ちょっと予定がありまして」
「え、デートすか?」
「だから、違うって。なんでみんなして予定=デートになるかね」
「この前のイケメンさん?」
「・・・早坂さんね」
「ジェラシ〜。この時間に会うって、デートとしか思えないな」
「わたしの終わりに合わせてくれてるから」