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いつもより身体が重いのは、昨日の酒が残っているからだ。二度寝のおかげで多少はマシになったが、さすがに全力疾走はキツイ。
途中何度か倒れそうになったが、なんとか店まで辿り着いた。11時59分。ギリギリセーフだ。カフェの入り口で大汗をかきながら息を切らしている女に向けられる好奇の目は、気にしない。
ハンカチで汗を拭き、呼吸を整える。そういえば、早坂さん達と待ち合わせた時も大汗かいてたな、わたし。あの時と違うのは、"引き返したい"という感情。しかし、そんな事を感じている暇はない。前回より重く感じる扉を開けて、中へ入った。
一通り、店内を見回す。そして、すぐにわかった。奥の2人掛けの席にこちらを向いて座っているのが、未来ちゃんだ。
向こうはキョロキョロしているが、わたしに気づかない。まあ、この距離で顔が認識出来るのは、わたしくらいだ。
ゆっくり向かうと、途中でわたしに気づいた未来ちゃんが席を立った。そして、すぐに気づいた。ゆったりとしたワンピースを着た未来ちゃんのお腹が大きい事を。
「雪音ちゃん」名前を呼ばれ、声があまり変わっていない事に内心驚いた。
「未来ちゃん」
わたし達は立ったまま、お互いの顔を見つめた。未来ちゃんは、全然変わっていない。あの頃のままだ。
「久しぶりだね。来てくれてありがとう、雪音ちゃん」
「久しぶり・・・全然、変わってないね」
「それ、今わたしも言おうと思ってた」
2人で笑い、無性に懐かしさが込み上げる。「とりあえず、座ろっか」
「あ、そうだね」ここがカフェだという事を忘れていた。
「雪音ちゃんご飯食べた?」
「あ、ううん。食欲ないからの飲み物だけでいいや。未来ちゃん気にしないで食べてね」今何か食べたら、間違いなく吐く。
「ううー、わたしも体重制限かかっちゃって。飲み物だけにしとこうかな」
「妊娠してる・・・よね?何ヶ月?」
「6ヶ月だよー」嬉しそうに笑う顔も、あの頃と変わらない。
「そうなんだ。性別は?」
「男の子!旦那さんは女の子が欲しかったみたいなんだけどね。わたしは最初は女の子がいいと思ってたから、嬉しくって」本当、言葉通りの顔をしている。