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文字数 831文字


「空舞ちゃん、絶対に刃に触れちゃダメよ。あなたの体に少しでも刺さったら、一瞬で消滅してしまうわ」

その言葉を聞いて、ナイフを引っ込めたくなった。

「大丈夫よ。そんなヘマしないわ」そう言い、空舞さんはナイフの柄を咥えた。「それより逃げたほうがいいわよ」

「えっ?」気づけば、蛾がゆっくりとこちらに向かってきているではないか。「ひぃぃぃぃぃ!」

「大丈夫だ、やつの動きは遅い。俺達の脚なら逃げれる」

「で、ですよね!」

「行くわ」ナイフを咥えた空舞さんが、わたしの肩から飛び立った。

「気をつけて空舞さん!」

空舞さんは先程同様、蛾の上空を旋回し始めた。それに気づいた蛾が、上を向く。
大丈夫だ、蛾の動きは鈍い。何かしようとしても、素早い空舞さんなら逃げれる。

空舞さんは旋回しながら上昇していった。そしてある程度の高さまで行くと、その流れに乗って一直線に下降した。咥えたナイフで蛾の頭を狙う。

イケる──そう思った瞬間、蛾の口から何かが吐き出された。それは空舞さんを目掛けて飛んでいく。空舞さんはギリギリの所で避けると、そのまま地面へと着地した。

「何あれ・・・糸?」

蛾はすぐさま向きを変え、空舞さん目掛けてもう1発。空舞さんは地面から飛び立ち、回避した。空舞さんが居た所には、白い糸のような物がへばりついている。

「蚕が吐く糸のような物かしら。触れたらぐるぐる巻きにされちゃうのかしらね」

「そんな悠長な事を言ってる場合ですか!」

空舞さんは、また上昇を始めた。もう1度試すつもりだ。蛾もさっきと同じように上を向く。
どうしよう。どうにか気を逸らせられれば──・・・考えるより先に、足が動いていた。

「雪音ちゃん!」

鱗粉に触れない所まで近づき、左足の靴を脱いだ。そしてそれを蛾のお腹目掛けて思いきり投げた。威力には欠けたが、見事命中した。

驚いたのは、それからの速さだった。靴が当たった瞬間、蛾はわたしを目掛けて先程と同じ物を口から噴射した。反射的に避けたが、片足に当たり地面に手をついてしまった。







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