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文字数 885文字


何も言えず、それから、一真くんと目を合わせせられなかった。気まずい。逃げたい。一刻も早く、家に帰りたい。感情が先走り、一真くんより先に進んでは歩調を緩めるを繰り返し、やっと、家の近くのコンビニまで辿り着いた。

「ありがとう、一真くん。ここからすぐだから、もう戻って大丈夫だよ。そこ真っ直ぐ行くと地下鉄の駅見えるから」

「大丈夫すか?家まで行きますよ?」

「大丈夫。買い物もあるし。それより、早く行かないと春香から連絡来るよ。時間的に、もう4杯目に突入してるからね」

一真くんは笑いかけて、すぐ真顔になった。「まさかって言おうとしたけど、春香さんならありえますね。この前もそうでした」

「言っとくけど、日々進化してるからね。舐めてかかると、やられるよ?」

一真くんはクッと笑った。「どうやられるんすか。じゃあ、俺は行きますね。雪音さん、気をつけて帰ってくださいね」

「うん、ありがとう」


一真くんを見送り、ドッと疲労感に襲われた。
これだったら、飲みに行ったほうが良かった気がする。なんというか、店での一真くんとは違った顔を見た気がする。
数々の意味深な発言を考えると、──わたしに、好意があるという事?まあ、軽い口調だったし?深く考える必要はないか。
とにかく、今は一刻も早く横になりたい。水買ってさっさと帰ろ。

と、ポケットの中の携帯がブルブルと着信を告げる。この時間にかけてくるのは──当たりだ。

「もしもし」

「もしもし雪音ちゃん?お疲れ様。お仕事終わった?」

「お疲れ様です。はい、終わってますよ」

「ちょっと話があるんだけど、今大丈夫かしら?」

「はい、どうしたんですか?」

「うん、実はね・・・」それから、言葉が途切れた。アレ?電波か?

「もしもし?早坂さん?」

「今、店の入店音鳴らなかった?」

「・・・ああ、今コンビニに寄ったところなんで」

「寄ったところって、歩いて帰ったの?」

あ、マズイ。墓穴を掘った。「違います。いや、歩いては帰ったんですけど、1人じゃなかったので!」セーフだよね。

「1人じゃなかったって、誰と帰ったの?」

「一真くんです。店のバイトの」

「2人で?」

「はい、送ってくれたんです」










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