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文字数 975文字


「えっ、雪音ちゃんまさか、本当に?」

店長の問いに、答えることが出来ない。自分に対して、こんなに疑問を抱いたのは初めてだ。

「ッ・・・アハハハ」春香が突然、声を上げた。「アンタ、なに真剣に悩んでんの?ウケるんだけど!アハハハハ」

「ええ・・・?」自分の顔が引きつってるのがわかる。

「自分が同性愛者かもって考えたんでしょ。違うわよ、間違いなく」

「だ、だよね!」

「身近にいるからわかるわ。アンタはノーマルよ。てか、それも自分でわかんないとか、マジで天然記念物ね・・・引くわ」春香は本気で引いていたけど、わたしは内心ホッとした。何を考えてんだ、わたしは。
「男の経験がないからそーなんのよ」トドメを刺すのも忘れない女だ。

「じゃあ、最初の男として俺なんかどう?絶賛フリーだよ」

「結構です」

「最初が肝心なのに、さすがにそれは雪音が可哀想だわ」

「・・・凌ちゃん、俺の心が折れる前にビールおかわり」

凌さんは肩を揺らして笑っている。「まあ今時、経験ない子も珍しくないよ。それだけみんな自立してるってことだし。この先、良い人と出会えればいいね」

「凌さんが仏様に見える」

「あ、じゃあアンタも今度合コンに来る?」

「結構です」

堅物女、という言葉は聞こえないふりをした。俺も行きたい、という言葉も。





お開きになったのは、1時を過ぎた頃だった。
火がついた春香はあれから濃い目のハイボールを数杯やっつけ(数えてたけど途中で止めた)、2軒目に行くと騒ぎ出したので店長と2人で無理矢理タクシーに乗せた。

車内でも飲み足りないを連呼していたけど、おそらく明日は覚えていない。あたし昨日どうやって帰ったっけ?と連絡がくるはず。まあ、お決まりのパターンだ。

帰宅したその足で、浴室へ向かった。水に近い温度のシャワーを浴びて、酔いを醒ます。
夜通し観ようと思っていた海外ドラマは、お預けだな。

帰宅からベッドに入るまでの時間、およそ30分。目を閉じれば、一瞬で寝てしまいそうだ。
重い瞼と闘いながら携帯をチェックする。

「あ・・・」数件の新着メールの中に、オネエという文字を発見した。

【こんばんは。起きてるかしら?】受信時間は22時31分─。飲みに行ったから、携帯をチェックしていなかった。今の時刻は2時過ぎ。さすがにこの時間に返すのは失礼だよね。まあ、明日起きたら返せばいいか。


もうこれ以上は、頭が回らない──。


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