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文字数 918文字


「そう・・・うん、わかったわ。雪音ちゃん、"ちゃんと"元気にしてる?」

「さっきも言ったでしょ?元気だよ」

「うん、うん。いろいろ大変だと思うけど、頑張りなさいね」

おばさんは、わたしをぎゅっと抱きしめた。慰めるように。わたしもおばさんの背中をポンポンする。

「うん、ありがとう」

おばさんは最後にわたしの手をギュッと握りしめ、頷き、家へと戻って行った。


「・・・すみません。隣のおばさんです」

「だろうな。よし、行くか」

「はい」


まさか、ここで会うとは。
おばさんとも、母さんが死んで以来だ。
あの時は、わたしより泣いてたな──と、思い出しておかしくなった。
まるで、わたしが"不幸な子"のように、わたしに気を遣い、わたしの顔を見て泣いていた。
大丈夫、頑張れと何百回言われただろう。その言葉を聞く度に逃げ出したくなった。

車に乗ろうとすると、突然、大きな身体がわたしを包み込んだ。

「えっ・・・早坂さん?」
身動きが取れないほど、強くホールドされる。
「・・・あの・・・」

10秒程して、解放された。見上げるわたしと、見下ろす早坂さん。

「・・・なんですか?」

「あのおばさんがやってたから、あたしも」

なんだそりゃ。意味不明すぎて笑いが出た。

「さ、帰りましょうか」

わけがわからない。──でも、"上書き"されたようで、不思議と気が楽になった。






帰りは絶対寝ないと思っていたが、暗闇とBGMに負けてしまった。

でも、久しぶりに良い夢を見た。
学校から帰ると、母さんが夕飯の支度をしていて、匂いで今日はカレーだとわかった。父さんも今日は早く帰れるからと、お腹を空かせて待っていると、ケーキをお土産に帰って来た。中身は、わたしが好きなチョコクリームのケーキ。
食後、みんなでケーキを食べながら体育の授業で褒められた事を言うと、父さんは誇らしげに喜んでいた。雪音の運動神経は父さんに似たんだと。
そんな他愛もない会話が嬉しくて、嬉しくて、ずっと続けばいいと思った。

一瞬目を開けた時、早坂さんの手を頬に感じたのは、涙を拭ってくれていたのかもしれない。
でも大丈夫。泣いていたとしても、これは嬉し涙だから。

お願いだから、このまま良い夢を見させて。
3人でいる夢を。そう願いながら、また眠りについた。


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