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文字数 886文字


そんな事を、しみじみと思いながら歩いていたせいか、気づくのが遅れてしまった。

わたしは昔から、歩く時に後ろを振り返る癖がある。それは、わたしにしか見えない存在の有無を、無意識に確認しているからだ。

だから、気づいた。店を出てから、ずっと同じ人が後ろをついて来ている。顔はよく見えないが、白い野球帽を被っている男だ。──いや、早とちりは良くない。たまたま同じ方向なのかもしれないし。

わたしは立ち止まり、携帯をいじるふりをした。男がわたしを追い越せば、勘違いということだ。
1分くらい、待ったと思う。とっくに追い越してもいいはずだ。さりげなく振り返り、ぎょっとした。その男も、立ち止まり携帯をいじっている。──いやいや、たまたまかもしれない。同じタイミングで携帯を見る事だってある。

今度は、早歩きをしてみる。少し息が切れるくらいまで歩き、振り返った。──血の気が、引いた。さっきと、距離が変わっていない。男はまた立ち止まって携帯を見ているが、身体の動きで息が切れているのがわかる。

確実に、つけられてる。
どうしよう、このまま行けば、家まで着いて来る──?
走って逃げるか。でも、振り切れる確信はない。一瞬、警察が頭を過ったが、何かされたわけでもないし。

この先にあるのは、家の近くのコンビニだ。とりあえず、そこまで行くか。たとえ変質者だとしても、店の中で襲ってきたりはしないだろう。走る事はせず、1度も振り返らず、向かった。

コンビニの自動ドアを抜けて、とりあえず安心した。そのまま窓際の雑誌コーナーへ行き、適当に手に取る。雑誌を見るフリをして外を見ると、居た。駐車場から少し離れた所にある電柱
に隠れるようにして、こちらを見ている。
ゾワっと鳥肌が立つ。おそらく、向こうはわたしが気づいている事に気づいていない。

問題は、これからだ。中に入ってくる気配はないし、このまま朝まで待つか。その前に、わたしが不審者になり追い出される。

もうこうなったら、直接言いに行くか?
さっきからわたしをつけてますよね、何か用ですか?そして、向こうが刃物を取り出し、グサッ──。自分で自分を追い詰めてどうする・・・。
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