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文字数 794文字


早坂さんがこっちを向いたのはわかったが、わたしは窓の外に目を向けた。

「気が合うわね」

「え?」

「あたしも、半径1メートル以内にあなたがいると安心するわ」

── それって、小さな子供に対する親の言い分では?そして近すぎでは?
おかしくなって、笑みが出た。

「せめて、3メートルにしてください」

「間を取って2メートルはどお?」

いや、そんな真剣に考えなくても。まったく、どこまで本気で言ってるのか・・・。今度は呆れ笑いが出る。

「じゃあ2メートルで」

「言ったわね」

「・・・え"」

「これからは、半径2メートル以内にいること。約束よ」

この笑顔が、怖い。「努力します・・・」

「2メートル以上離れる度にお尻ペンペンの刑よ」

「あはは。それって、傍から見たらセクハラになると思うんですけど」

「そおねえ・・・何か考えとくわ。おしおき」

笑顔でおしおきを考える人って、怖い。





家に着いたのは、10時半を過ぎていた。
寝るにも早いしと、冷蔵庫を開ける。缶ビールと酎ハイが1本ずつ。これを飲んで寝たら、時間的にちょうどいいな。
なんて言いながら、本当は、このコップを使いたいだけなんだが。
テーブルに置き、部屋の照明を最大に明るくする。いろんな角度から写真を撮り、見栄えが良い物を壁紙に設定した。

冷凍庫で10分冷やしたビールをグラスに注ぎ、また写真を撮る。

グラスに手を合わせ、財前さんに感謝しながら1口いただく。はずが、引き際がわからなくなって、一気に飲み干した。

「きゅい〜〜〜」これぞ、至高の1杯。もう明日死んでもいい。──・・・明日か。死んでられないじゃん。
あそこに行くのは、何年振りだろう。イマイチ、実感が湧かない。イマイチ、自分の感情がわからない。
わかっているのは、自分の感情より優先すべき事があるということ。それに専念するんだ。

"あたしがついてるわ"

その言葉が、魔法のようにわたしを包み込む。

そう。やるべき事を、やるだけだ。






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