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文字数 885文字


林に足を踏み入れてから、しばらく無言で進んだ。道という道は無く、そのうち迷路にでも迷い込んだ気分になった。静まり返った中、枝を踏んだ時のパキパキという音が響く。

「おい中条、なんで電気消してんだ。足元が見えないだろ」

「虫が寄ってくるからよ」

早坂さんが代弁してくれた。

「虫・・・ってそれがどうした」

「怖いのよ」

「・・・正気か?」

「ダメなんです。虫だけは。昔から。ぜったい」

「何がだ?何も悪さしてこないだろ」

「見た目がもう無理です。とくに蛾と蜘蛛は・・・バッタも、セミも、トンボも・・・」

「お前、ムカデに飛び乗ってたよな」

「・・・あの時は、勝手に身体が・・・」

あの大きな触覚の感触を思い出して、鳥肌が立った。今吐けと言われたら吐ける。

「理解できん」

「まあ、それに関してはある意味同感よ」

そう言いながらも、早坂さんはわたしの前を歩き道導となってくれている。

「この服、いいですね。少々の虫なら飛んで来ても平気かも」

前から呻くような溜め息が聞こえてきた。

「用途が変わってきたわね」

「おい、あそこ」 瀬野さんが言い、足を止めた。
瀬野さんが電灯の灯りで示した場所に、木が倒れているのが見えた。近寄ると、長くまっすぐな木が何個も横たわっている。

「このままかよ」

「仕方ないわよ。逃げれただけ良しよ」

早坂さんと瀬野さんが辺りを見回すが、これといって変わった物は見えない。
その時、後ろのほうでガサっと物音がした。驚いて振り返ろうとした拍子に何かにつまずき、そのまま尻もちをついてしまった。

「アタタ・・・」

「ちょっと、大丈夫?」

「はい、何かにつまずい・・・」ふと、地面についた手に感じる何か。瀬野さんのライトによって、それが見えた。「ギャ──!!」思いきり振り払い、目の前の物に飛び付いた。

「・・・ほんと、今日はずいぶんと積極的ね」

我に返り、早坂さんの身体に回した腕と脚を離す。

「スミマセン・・・」

「あたしは大歓迎だけど」口調がニヤついている。「大丈夫?怪我はない?」

「はい、全然」

「何か見えたのか?」

「虫が、見た事ないようなデッカイ虫が手に・・・」

瀬野さんは言葉の代わりに呆れ全開の息を吐いた。
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