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文字数 937文字


「クセになって・・・」

人を襲う事を楽しんでるってことか。
世の中には、悪い妖怪だけが存在するわけではない。財前さんやおばあちゃん、空舞さんのような良い妖怪もいる。みんなが、そうだったらいいのに。甘い考えだというのはわかっているが、そう思ってしまう。

──そういう意味では、人間と同じなのかも。
時には、人間のほうが残虐な事だってある。


頭に触れるものを感じ、顔を上げた。

「どうしたの?下向いちゃって」

微かに微笑む早坂さんには、わたしが何を考えているかわかっているように見えた。

「いえ、ちょっと財前さんとおばあちゃんを思い出してました」

「そおねぇ、世の中の妖怪がみんな彼らみたいだったらいいのにね」

わたし、声に出してないよな。おそるべし、エスパー早坂遊里。

「人間と同じで、そんな事あるわけないってわかってはいるんですけど・・・」

「そうね、どの世界にも必ず善と悪が存在するわ。その2つは紙一重とも言えるけど・・・出来れば、前者側でありたいわね」

「・・・わたしはどっちだろ」

ああ──まただ。こんな時、必ず浮かぶ母さんの顔。早く、何かで紛らせなければ。今は早坂さんと瀬野さんがいるんだから。

ほんの一瞬だった。ほんの一瞬で"済んだ"
母さんの顔が、早坂さんの顔に変わったから。

「また下向いてる」わたしの顎に触れる手が、いつもより力強い。「あなたは、自分より人の感情を優先させる。それは、相手を傷つけたくないから。それは、あなたがとても優しいから。あなたを知ってる人はみんなわかってるわ」

思いがけない言葉と、早坂さんの優しい表情に胸が締め付けられ、泣いてしまいそうだった。今何か言葉を発したら、絶対に泣いてしまう。

「まあ、人間は見た目じゃわからないわね」そう言って、早坂さんは自分に向けた手を離した。「極悪面の善人もいるし」

「おい、誰の事言ってる」

「誰って、別に一般論よ」

「嘘つけ、絶対俺の事だろう」

「あら、自覚はあるのね。褒めてるんじゃない」

「どこがだ」

「善人って言ってるのよ」

「だったら普通にそう言え」

2人の漫才を聞きながら、目尻に滲んだ涙をそっと拭った。
──やっぱり、好きなんだなぁ。改めて実感させられる。こうやって、いつもわたしを救ってくれる早坂さんが、わたしはとてつもなく、好きなんだ。











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