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「・・・早坂さんじゃない」
「なんでよ!せっかく奢りで飲めるのに」
「いつも奢りでしょ」ここで、店長がしみじみと頷く。「凌さんの奢りなら尚更、人数少ないほうがいいしね」
「えっ、雪音さん気にしてるんすか?だったら全然大丈夫すよ?」
「ううん、用があるのも本当だから。ごめんね」嘘はついていない。空舞さんを確認するという大事な用だ。
「ショック〜、また振られた・・・」
「って、この前2人で飲みに行ったでしょ」
「そうですけど・・・」
「まあまあ、無理強いしないで、今日は俺達で行こう」
「そうですね、ノリ悪いのはほっといて行きましょ。待っててね〜、麦男く〜ん」
「春香、凌さんの奢りだからってアホみたいに飲んじゃダメだよ」
「わかってるわよ。ったく、人をアル中みたいに」
自他共に認めていると思ったが、どうやら他だけのようだ。他の人間2人が何を思っているかは、顔でわかる。
「雪音さん、俺送っていきますよ?」
「あ、大丈夫。今日は地下鉄で帰るから。ありがとう」
一真くんはあからさまに残念そうな顔をした。「わかりました。気をつけて帰ってください」
「ありがとう」
地下鉄まで足早で行き、降りてからも足早で家へと向かう。階段を1段飛ばしで上り、馬鹿みたいに焦って鍵を開けた。電気をつけるのも忘れて、カーテンを開ける。
思わず、溜め息が漏れた。いると思ったんだけどな。
空舞さんはいったい、何処に行ったんだろう。
諦めモードでカーテンを閉め、部屋の電気をつけた。
「ギャ───!!!」
「・・・ビックリした。突然大きな声を出さないでちょうだい」
「・・・空舞さん?えっ・・・なんで?」
そこに、空舞さんがいた。ソファーにお腹をつけて座っている。
「鍵、空いてたわよ。不用心ね」
「えっ!うそ!」そういえば、今日は何回もベランダに出ていたから、閉め忘れたのかも。「にしたって、どうやって入ったんですか!?」
「開ける事くらい造作ないわ」
「えええ・・・?」クチバシを使って開けたんだろうか。なんて、器用なんだ。