p.13

文字数 932文字


「雪音、ちょっとしゃがんでみろ」

玄関まで見送りに来たおばあちゃんが帰り際、わたしに言った。言われた通り、おばあちゃんの前にしゃがむと、小さくてシワシワの手がわたしの頬を包む。
不思議な事に、頭の中を、スーッと風が通り抜けるような感じがした。

「今日はグッスリ寝れるはずだ!」

──なんで、わかるんだろう。最近、母さんの夢を見てから寝つきが悪い。これが、おばあちゃんの力なんだろうか。

「ありがとう、おばあちゃん」

「ガッハッハ!唐辛子は要るが?」

「結構です!!」

次に、早坂さんに紙袋を渡された。「なんですか、コレ?」

「今日の残りよ。明日のお昼にでも食べて」

「えっ!いいんですか!?ありがとうございます」また、あの味が堪能できるとは。

「ご飯はちゃんと食べなきゃダメよ!」

オカンだ。

「俺にはないのか?」

「アンタは3人前食べたでしょ!」

「正輝、唐辛子は・・・」おばあちゃんが言い終わる前に、瀬野さんは玄関を出た。

「瀬野っ、雪音ちゃんのことヨロシクね」瀬野さんは半分振り返り、手を上げた。

「早坂さん、また明日。おばあちゃん、またね」

「まだ遊びに来いよ!待ってっから!」

「ふふ・・・うん」

「やん!そんな可愛い笑顔、あたしには向けた事ないのに!」

早坂さんの言う事は無視して、玄関の扉を閉めた。




瀬野さんに家まで送ってもらう途中、はたと気づいた。彼女の事、聞いてなかった。
──こうなったら、瀬野さんに聞いてみる?仲良いし、それくらい知ってるだろう。というか、これは、色々と聞く絶好のチャンスなのでは?

「・・・瀬野さん」

「ん」

「早坂さんって・・・」

──・・・彼女の、"か"が、どうしても出て来ない。

「ん?なんだ?」

「早坂さんって・・・その・・・男ですか?」聞きたかった事とは違うが、間違ってはいない。

「・・・お前はアレが女に見えるのか」

「いや、そーゆう意味じゃくて。中身は男なのかなって」

「ああ、ゲイかっつー話か」

「イエス!」

「違う」

「えっ!」驚くと同時に、何処か納得する自分。

「あの変態喋りだからだろ?・・・前はあんなじゃなかったんだけどな」

「前は?」

「・・・アイツもいろいろあったからな。俺の口からは言えんが。まあ、ゲイ云々という事ではない」

「・・・そうですか」

「女はすぐに知りたがるな」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み