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わたしの目の前には、1羽の黒いカラス。
気のせいでなければ、わたしを見ている。
営業終了後、店を出た直後の事だ。
「春香、アレ、見える?」
「ん?あれって?」
「アレ」わたしはカラスを指差した。つまり地面を。
「は?何?虫でもいるの?」
やっぱり、そうか。
「うん、なんか変な虫いたけど、どっか行っちゃった」
「あんた、大丈夫?仕事中もおかしな事言うし・・・」
「ヤクはやってない」
「あそ、んじゃ、さっさと帰りますか。麦男くんが冷蔵庫で待ってるわ〜」
「俺、軽く飲みに行くけど一緒に行く?」
「いや〜、行きたいのは山々なんですけど、借りてたDVD明日までに返さなきゃで、今日は徹夜なんです。あー!3本も観なきゃならない!」
「大変だね・・・雪音ちゃんは?行く?」
「あ、いえ。わたしも今日はやめときます」それより、目の前の物が気になって仕方ない。
「つれないなぁ・・・じゃあみんな、気をつけて帰ってね」
「はい、お疲れ様でした」
「雪音、この前買った本、今日中に読んで明日持ってきて。じゃあね〜」
「明日!?・・・まあ、頑張る」
──2人がいなくなってから、どうしようかと、考えた。
春香に見えないということは、このカラスは"ただのカラス"ではないということだ。
妖怪?にしては、何処をどう見ても普通のカラスにしか見えない。
変なのは、ここにいるという事。
そう、営業中も、このカラスはずっと窓の外にいた。
「あのカラス、ずっといるよね。気味悪くない?」
「・・・あんた、また幻覚見てる?最近、本気で心配してるんだけど」
閉店後、いつものように入口でタバコを吸う店長に聞いた。「店長、窓の外に何か見えます?」
「え?」店長は立ち上がり、外を覗いた。「ん?何かって、あのイチャついてるカップルのこと?」
薄々そうじゃないかと思っていたが、店を出た今、確信を得た。
しかし、どうすれば?何かしたわけでも、されたわけでもない。ただ、普通の人には見えないカラスが、ここにいるだけだ。
早坂さん達に連絡するべきか。どんなものでも妖怪を見たら連絡をくれと言われてるし。
そもそも、このカラスは本当に妖怪なのか──?