p.1

文字数 867文字


「あ、雪音ちゃん。今週末、出かけるんだけど、雪音ちゃんも来る?」

名前を呼ぶ前に、あ、がつくのが伯母の癖だった。腫れ物に触るような態度も、横目でチラチラとわたしを伺うのも、此処に来てからずっと変わらない。

「ううん、わたしバイトあるんだ。ありがとう誘ってくれて。伯父さんと楽しんでね」

「あら、そう。残念。じゃあまた次の機会にね」

残念と思ってる人は、そんな顔をしないと思うよ。もう、このやり取りにうんざりしていた。
気を使ってくれているのはわかるが、そろそろ察してくれとも思う。

母さんが亡くなってから、わたしは母方の祖父の家に世話になっていた。祖父はわたしが小さい頃に亡くなっていて、祖母と長男夫婦の3人暮らしだ。

最初にこの家に来た時の、伯母の顔は忘れられない。正直な人なんだろう、こんなに笑顔でいることに必死になっている人を初めて見た。
2人の間に子供はおらず、これは後から聞いた話だが、伯母さんが子供を欲しがらなかったという。そんな人が、年に数回会う程度の義姪と突然同居になるんだから、さぞかし嫌だったろう。

わたしは学校に通いながら、毎日のようにバイトをしていた。家に帰りなくなかったのもそうだが、高校を卒業してから一人暮らしをする為の費用も貯めたかった。

伯母に負担をかけるのが嫌で、朝食は抜いていた。ギリギリまで寝ていたいからと嘘をつき、時間になるまで部屋で過ごした。昼食は学校の購買に行き、バイト代でパンを買う。夜はバイト先の賄いだ。伯父はお小遣いを渡そうとしたが、わたしは頑なに断った。
妹の子供とはいえ、本当、可愛くない姪だったと思う。

そうやって、出来るだけみんなで共有する時間を避けていた。伯父も伯母も、決して悪い人ではない。ただ、気を使われれば使われる程、辛かった。誰もわたしに気にかける事がないように、自立していたかった。

そんな中でも、気持ちにゆとりが出来る日があった。仲の良い伯父夫婦は週末になると2人で出掛けて、夕方まで帰ってこない。伯母が子供を望まないのは、こうやって夫婦の時間を優先したいからなのかなと、ちょっと思った。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み