p.5

文字数 892文字


昼間飲んだのって1本だけだよね。目をこすって、再度確認する。

「・・・財前さんのお子さんでいらっしゃいますか?」

早坂さんは噴き出し、目の前にいる着物姿の男の子は、おかしそうに笑っている。

「今、お茶を淹れてくるから待ってなさい」

「あっ、僕!おかまいなく!」

男の子は軽い足取りで部屋を出て行った。テーブルに突っ伏して肩を震わせている早坂さんの隣に座る。

「ちょっと!誰ですかあれ!」小声で言った。

「誰って、財前さん以外の誰がいるんだ」瀬野さんは早坂さんの向かいに座り、バームクーヘンを食べている。

「だって、子供!どう見ても小学生!」

「前に会って知ってるだろう。あの人が見た目を自由自在に操れるのは」

「操れるったって・・・」確かに、髪型や着ている物は財前さんそのものだが。頭がついていかない。

「あの姿も久しぶりに見たわね。あなたの反応を見て楽しんでるんでしょ。裏切らないから」

そういえば、前もお茶を淹れに行って、戻ってきた時は歳をとっていた。今回もまた姿を変えて来るんだろうか。ドキドキしながら待っていると、襖が開いた。

変わってないー!財前さんはわたしの前にちょこんと座り、小さな手で湯呑みを差し出した。

「ありがとうございます」一口啜るが、味が入ってこない。

「雪音ちゃん、元気だったかい?」

「あ、はい!財前さん・・・も、お元気ですか?」

「僕は変わらずだよ」

──駄目だ。集中出来ない。
見た目的には、10歳にも満たないと思う。声も高いし、顔にも面影を感じられない。喋り方以外、財前さんと認識出来るものがない。

「よかった・・・」目のやりどころに困り、お茶を飲む事に必死になる。
早坂さんがニヤニヤしてるのは視界の隅でわかった。

財前さんはテーブルに肘をつき、顎の下で手を組んだ。この仕草は財前さんだ。

「この姿だと、落ち着かないかい?」

「はい」即答してしまい、すみませんと謝る。

「今戻ってもいいんだが・・・」

「是非お願いします!」

「しかし困ったな。それだと裸になってしまうんだが、いいかい?」

「え・・・裸?ですか?」

「ほら、着物がね。大きくなるのは身体だけだろう?」

「・・・・・・そのままでお願いします!」








ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み