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文字数 828文字


「今度また、うちに食べに来なさい」

「・・・えっ、いいんですか?」

「もちろん、あなたの持ち帰り用もたくさん用意しとくわ」

「ヤッタ、死ぬほど美味しかったから、また食べたいと思ってたんです」

「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」

「おばあちゃんにも会いたいし」

「美麗ちゃんも、雪音は今度いつ来るんだって聞いてくるのよ。近いうちに予定を立てましょう」

「楽しみにしてます」






財前さんの家へ行くのはこれで2回目だが、なんとなく道は覚えていた。閑静な住宅街を走り抜けた先にある、緩やかな上り坂。そこに、侵入禁止の標識。
前回車を止めた所に、白いワゴン車が止まっていた。

「あれ、瀬野さんの車ですよね?」

「そうね」

早坂さんは瀬野さんの車の後方に自分の車をつけた。
車内はエアコンが効いていた為、車を降りた瞬間、ムワッと熱気を感じた。
── 前に来てからそんなに時間は経過していないのに、不思議と懐かしく感じる。
早坂さんはジャケットを脱ぎ、ネクタイを外すと後席のドアを開けて乱暴に放り込んだ。


「シワになりますよ」

「いいのよ、どうせクリーニングに出すから。暑くて着てらんないわ」

ボタンを外して袖を捲る一連の動作に、くぎ付けになる。シャツ1枚でもこんなに"優雅"に見えるのは、元々の土台の完成度ゆえの話か?
なぜか、無性に腹が立つ。

「・・・睨まれてる?」

「いいえ」

「行きましょうか。歩ける?」

「抱っこは結構です」

「遠慮しなくていいのよ」

「してません」



財前さんの家は、相変わらず独特な雰囲気を醸し出していた。家の周りに生い茂る木は、以前より深くなっている気がする。まるで、この家を守っているかのように。
早坂さんは前回同様、インターホンを鳴らさずに玄関のドアを開けた。

「こんばんはー。入るわよー」

そして前回同様、玄関を上がってすぐ右手の襖を開ける。

「遅いぞ」

「アンタが早いのよ」

挨拶をしようと財前さんを探したが、中に居たのは、瀬野さんと、───・・・ん?子供?

「やあ雪音ちゃん。また会えて嬉しいよ」










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