p.12

文字数 845文字


それから僅かして、大ムカデの動きがピタリと止まった。

「おわっ・・・」その反動で落ちそうになったが、なんとか踏ん張る。
なんで急に動きが・・・?2人が何かしたのか?

「中条!すぐ動き出すぞ!今の内に早く頭を狙え!」

瀬野さんが全部言い終わる前に、わたしはその頭を、両手で突き刺していた。
硬い──が、刃部分は全部刺さっている。こんなに小さなナイフで、本当に仕留められるのか・・・?

大ムカデは消える事もなく、時間が止まったように動かない。やっぱり、このナイフじゃ駄目だったのか?
また、動き出すんじゃ──覚悟をしたその時、変化があった。ヘッドライトをつけて確認する。大ムカデの体全体が、白い石のようになっている。

「えっ、なにコレ」そして尻尾のほうを見ると、塵のように消えかけていた。

ということは──仕留めたのか?
ヤッタ!と、喜んだのも束の間、えっ・・・このまま体が消えたら──わたしは?

「いやいや!ちょっと待ってー!」見ると、もう、胴体の半分近くまで塵になっている。「ギャ──!」

「雪音ちゃん!飛び降りなさい!」

2人がこちらを見上げている。「飛び降りるったって、この高さ・・・」

「あたしが受け止めるから!そのまま飛び降りなさい!」

この高さで、受け止められる?下手したら、早坂さんが怪我するんじゃ・・・。
その時ふと、目に入った物。垂れ下がった触覚は、まだ形を残している。考えてる時間は無い。わたしはその触覚にしがみつき猿のように滑り落ちた。

「なっ、何してるの雪音ちゃん!」

「おいおい、冗談だろ・・・」

ギリギリまで下がり、下を見る。大丈夫だ、降りれない高さではない。飛び降り、着地に備える。

──なんとなく、予想は出来ていた。こうなるだろうと。
華麗に着地を決める予定が、早坂さんの腕に掴まれていた。

「・・・ありがとうございます」

こんなに至近距離で早坂さんを見下ろす事は、ない。目を細めているのは、ヘッドライトが眩しいのか、わたしを咎めているのか。前者である事を願いたい。

早坂さんはゆっくりと、わたしを降ろした。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み