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文字数 934文字


「ご両親は、亡くなっているんですよね。兄弟とかはいるんですか?」

「いないわ。優子は1人っ子なの。少し離れた所に伯父がいるって言ってたけど。ここに運ばれた時来ていたのがそうね」

「そうですか・・・」

両親はおらず、1人っ子。離れた所にいる伯父か。境遇が似てるな。
この人も、わたしのような幼少期を過ごしてきたんだろうか。誰にも言えず、1人で・・・。

「優子が言ってたわ。自分がもう長くないとわかっていなければ、わたしには話しかけなかったって。だから、わたしと仲良くなれたのは病気に感謝だって」

「・・・優子さんの言う事が、少し、わかる気がします」誰も理解してくれない。だから怖い。だから、見ないフリをする。


「ブレスレット、つけてあげて」

「あ・・・はい」

バッグからハンカチに包んだブレスレットを取り出し、彼女の点滴が繋がれていないほうの手にそっとつけた。色白な手にゴールドがよく映える。
わたしはそのまま、彼女の華奢な手を握った。

「優子さん、空舞さんが、ブレスレット大事に持っていてくれたんですよ。ちゃんと優子さんの手にあるから、心配しないでくださいね」

──そして、出来れば、目を覚まして話をしましょう。わたし達にしか出来ない話を。きっと、良い友人になれる。


「雪音。ありがとう」

「・・・あ、いえ」

「あなた、泣いてるの?」

「えっ」瞬きをすると、目から涙が溢れて慌てて拭った。無意識だった。わたしが泣いてどうする。

空舞さんがわたしの肩に飛んで来た。そして、クチバシでわたしの頬に触れる。まるでキスをするみたいに。

「あなたのおかげよ。感謝してるわ」

「いえ、わたしは何も・・・」

「ここからはもう大丈夫よ。わたしは暫くいるから、あなたは帰って自分の事をしてちょうだい」

「・・・わかりました」

「優子が目を覚ますかは、正直わからないけど・・・その時は、1番にあなたの事を話すわ」

「・・・空舞さん。優子さんが目を覚ましたら、わたしにも伝えに来てもらえますか?」

「ええ、わかったわ」


最後に病室を振り返った時、空舞さんは優子さんの枕元へ移動していた。

余命宣告を受けている彼女。わたしなんかが軽々しく何かを言える立場ではない。
でも、出来る事なら、もう1度、空舞さんの前で笑顔を見せてほしい。
切にそう願った。
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